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口の中で淡く崩れた食べ物が甘いのか辛いのか、パロマには全く分からなかった。ブラッドの色気にあてられてパロマは本気で気を失う5秒前だ。しかし、捕まえた獲物で遊ぶ楽しみを見出だしてしまった彼によって、そう簡単には現実から引き離してはもらえない。
「口元に砂糖が付いているぞ。―――ほら、ここ。」
下唇の端を優しく指で撫でられる。空気が急に官能的に変わった。
「ボ、ボスっ・・・もうやめっ―――」
「名前で呼んでくれるのではなかったのか。」
ブラッドは小さく震える彼女の唇からゆっくり伝って赤く染まった頬を撫でながら、今度は名前を呼ばせようとする。さっきから何一つ抵抗できていないパロマはギクっと身体を強張らせた。
以前、あのハート城での大騒動の後、初めて名前を呼んでもらえた事に気を大きくしたパロマは、ブラッドに対して大胆にも大口を叩いてしまった事がある。



―――私だって強くなるんです。初めてここに入れられた時とは違うんですよ?そして、貴方も・・・。いいでしょう、ここからまた始めましょうか。―――ねぇ、ブラッド?



あの時はこれで対等だと豪語していたパロマだが、あの後すぐに心を改めた。この雲の上のお方と自分とが対等である筈がない。動物で例えるならば、伝説の生き物鳳凰と冬を凌ぐのにせっせと種を集める働き蟻程の格差がある。
さっさと敬称に戻したパロマだったが、心情をすぐに見破ったブラッドからしつこく何度もからかわれ、「ボス」と言う度に強制的に名前を呼ばせようとする。一度屈して呼び捨てにしたら、パロマにとって運悪くその場に居合わせたエリオットに、「てめぇ、命が惜しくねぇのか。」的な鋭い睨みを見舞わされた。それ以降、笑いの種にされるのも嫌だし、エリオットの不評を買うのも恐ろしいので、梃子でも名前は口にしないようにしていたのに―――
パロマは両手で自分の口を覆う。
これ以上何も喋れないパロマの最後の抵抗だった。
しかし・・・
少しの隙間さえ許さないと、身体に回された両腕にさらに力が加えられ、身体同士がピッタリと重なりあう。
それだけで覆った口許から甘い声が漏れそうになった。
「私の名は『ブラッド』だ。二人でいる時位、口に出しても良いだろう?」
悪魔の囁きが、パロマの耳朶を甘く刺激する。
パロマは頬を薔薇色に染めて涙目になりながらフルフルと顔を振る。もう言葉で抗うのは出来なくなってしまっていた。自分の状況が最早どうなっているのか、鈍る思考は全く機能してくれない。
しかし玩具で遊ぶ事に余念がないブラッドは、優しくも残酷に振り払えない程の力を入れて、パロマの口を覆った両手を剥がしてしまう。
「やぅっやだ・・・お願いっ許して、ブラ―――」




「おい、ブラッド!!」




バアアアン!!!



ノックの音もなく、ドアが激しく開いた。
「やっぱあいつ等は見付からねぇって。ったくどこにトンズらかましやがったんだ。まぁだか、代わりにこっちの用はばっちり進んで―――って、どうしたんだ?」
突如部屋に入って来たエリオットは、部屋の中を見てキョトンとした。


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