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座れと言われて回りを見渡しても、近くの椅子はブラッドが座っている物だけだ。少し離れた所にエリオットが使用している椅子があるが、恐れ多くて今の今まで座った事等一度もない。
これはやはり、言葉を素直に取るとブラッドの膝に座れと言う事だろうか。
それとも彼の言う試練が早くも始まったという事なのか。前者は無いなとパロマは早々に決め付け、何とか断りの文句を頭から捻り出す。
「私はまだ勤務中なので、座るわけにはまいりません。どうぞ、紅茶が冷めない内にお召し上がり下さい。」
ことさらニコヤカに断りの常套句を口に乗せる。しかし、
「誰が休めと言った。仕事の一環だろう?言うことを聞かないと怠けていると見なすぞ。」
「えっ?い、いえ、上司の上に座るなんて私、奴隷身分でそんな大それた事は出来ません。」
「その上司命令が聞けないと言うのか。つべこべ言っていないで早く座れ。」
パロマの頑張って絞り出された台詞は、ことごとくブラッドによって一刀両断に切り捨てられた。
(ええええ?!)
パロマはこの簡単そうな試練が、実際はブラッドに口答え出来ない自分にとって、ものすごく過酷なものだと・・・ハッキリと悟った。
「こ、ここで上司命令は卑怯ではないでしょうか!何と言われようとも絶対に座りません!!」
パロマの必死な抵抗に、ブラッドは一切の反抗を許さない魔性の微笑みを浮かべた。


「す・わ・れ。」


これを断ったら、後がものすごく怖い。
「―――はい。」
パロマ完全敗北。
「し、失礼します」と呟いて、彼の膝の一番先におずおずと座るはめになった。するとすぐさま腰を掴まれグッと抱き込まれてしまう。ドキンと一段と高く胸が高鳴り抵抗しようにも、腕も一緒に抱き抱えられて動きようがない。
逃げ場を失ったパロマの耳元でブラッドは微かに囁く。
「それで?お前の心を奪った菓子というのは何だったんだ。」
「きゃあ!」
パロマの胸が締め付けられる位に鼓動が早まる。
「あっああああのっ、しっ白いクッキーです!丸くて可愛くて、そのっ美味しそうだなぁって。」
「それでは一つ取って食べさせてくれ。」
(ひえぇぇぇぇぇぇ)
パロマの中で試練という言葉は遠い何処かに飛んで行ってしまった。この窮地、どうやって乗り切れば良いのか、その事だけで頭が一杯になった。耳まで真っ赤にして幼稚にうろたえる彼女を、笑いを堪えてその無様な姿を堪能している後ろの男には全く気付かずに。
「目の前にありますから自分で取って食べて下さい!もう本当に勘弁してくださいぃ!!」
「あぁ、そうか、お前は食べさせたいのではなく、自分が食べたかったのだな。それなら私が食べさせてやろう。」
パロマが抵抗出来ない様に左手で彼女の両腕ごと抱き込んで、今度は右手で小さなクッキーと一つ摘む。それを口の前まで持ってこられてしまうと、パロマは次に何を言われるのか、否が応でも分かってしまった。
「ほら、口を開けろ。」
「〜〜〜っっっ!」
口を頑なに閉じ、目をウルウル潤ませてブラッドを見上げても、彼は妖艶に微笑んでいるだけで許してはくれそうにない。
この体制のせいで、高鳴る心臓に限界が近づいている。身体越しに伝わるお互いの体温。彼が好んで使っているパルファンの清涼な香りまで移ってきそうだ。
(どっどうしたら良いのっっ)
これ以上の抵抗が出来ずに口を小さく開けると、ブールドネージュをポイっと投げ入れられた。
「―――何だ、随分甘いな。」
彼は親指に残った粉砂糖をペロッと舐めて見せる。


(甘いのは貴方です!!!誰かっ誰か助けてええええええ!!!!!)






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bkm


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