09
どこかに捨てられそうなピンチから何とか逃れたパロマは、ブラッドに背を向けて安堵のため息を吐いた。
危なかった。
双子のせいで、自分が危機的状況に陥る所だった。
(借金っていくらあるの〜。うぇ〜ん、早く返さないと・・・。ディーとダムに構っている場合じゃなかったのね。)
ブラッドにとってはちょっとした思い付きだったが、パロマには世にも恐ろしい恐怖を沸き立たせた。
今後双子には用が無い限り近づくまいと心に固く誓ったパロマだった。
(それにしても・・・)
カチャカチャとティーカップの準備をしつつ、コソっとブラッドの様子を伺おうとしたら、バッチリ目線が合って慌ててササッと目を逸らした。
ハートの城での大騒動の後、
ブラッドの態度が徐々に変わってきた。
少しずつ少しずつ、そして振り返ってみると初めて会った頃と今とでは大幅に激変していた。
この屋敷にやってきた当初は優しく笑顔で接してくれていたが、それはスパイだと疑われた為の偽造の優しさだった。一度そうじゃないかと疑った事があったが、ここへきてやはりそうだったのかと断定せざるを得ない。
アリスを探しに屋敷を無断で飛び出したから、次に会った時は絶対に許してはもらえないと思っていたのに、ハートの城での舞踏会の後パロマはあっさりと屋敷に連れ戻された。最初こそ牢屋に入れられたものの、お咎めだけで済んでいる。以前と変わらず下働きとして働ける事に、嬉しい気持ちがあるにはあるが・・・


ワゴンの上で、紅茶の濃さが均等になる様にゆっくりとティーポットからカップへ回し注ぐ。今回の茶葉は等級に“F”が付く最高級クラスだ。
カップをソーサーにセットしてブラッドの机に静かに置く。彼はカップを持って紅茶を一口含むと、
「エグい。」
すぐさまダメ出しをした。
簡潔な言葉の刃がパロマにブスッと突き刺さる。最近ずっとこの調子だ。
「早く淹れ方を覚えろと何度も言っているだろう。こんな不味い液体喉に通らない。」
淹れ方はどうであれ、それじゃあ一級品の茶葉が泣く。パロマが出す紅茶を扱きに扱き下ろして、それから嫌味ったらしく専属エキスパートを呼び出し、淹れ直させる。
それなら最初から専属エキスパートに淹れてもらった方が効率的だと進言しているのに、そこはお前がやれと頑なに拒まれる。そうとなったら下手な物は出せないと、雑用だらけだが仕事に忙しい時間をどうにか割いてエキスパート様に教えを請う現状だ。
(くぅぅぅ〜・・・逃げ出す前は文句も言わずにゴクゴク飲んでいたのに。どれだけ猫被っていたの、この人・・・。)
毒入りなのかを吟味していたせいか、はたまた気を許していなかった為か、あの頃は素知らぬ顔でパロマが淹れた紅茶を嗜んでいた。そんな彼は実は生粋の紅茶党で、味にも香りにも煩い人物だったのだ。酷い時には香りを嗅いだだけで窓の外に捨てられた事もある。
そして先程の激怒でも分かるが、彼はひどく気分屋な所がある。怒った時のガミガミ度合いはエリオットなんて比ではない。ブラッドの言葉の方がひどく辛辣で、それこそ言葉の刃でめった切りにしてくる。
彼は本当に、
正真正銘、
本性なんて全く晒していなかったのだ。


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bkm


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