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「普通に・・・美味しいですよ?」
「そんな事は当たり前だ。今更何を言っている。私の夢の世界は、完全無欠の理想郷だぞ。欠陥品等何一つ無い。ブッ!やはりこれも湿気ているでないか。パロマ、ちょっとあそこまで行って、菓子のストックを取って来るのだ。」
言っている事が支離滅裂なナイトメアに、パロマはただただ目を丸くするばかりだった。顎で示された先に視線を向けると、遥か遠〜くにちっっっちゃく、肉眼で見えるか見えないか位な所に、黒い点があった。あれは、もしかしたら、箪笥・・・だろうか。
「茶が冷めたら不味くなる。10秒以内に取って来い。」
(ええええっ?!)
ビックリして振り返ったら、ナイトメアがもうタイムを計ろうとしていた。
「えっちょっっナイトメアさん待っ!!急に来て何なんで」
「スタート!」
「えええええっ?!?!」
慌ててダッシュして遥か遠くまで全力疾走。息を整える間もなく箪笥の中から菓子の缶を取りだし、今度はUターンしてナイトメアのいる所まで戻る。10秒内に間に合ったかどうかは定かではないが、パロマは疲れ切ってゼェゼェと肩で息をしていた。
「ほらどうした。茶が冷めるぞ。」
「ちょ・・・っ、もう少しっお待ちください・・・っ」
息も絶え絶えな所を顎で使ってくるナイトメア。一歩も動いていない彼の前には、湿気ているとは思えない先ほど準備した煎餅が。
パロマは小首を傾げならがも、それでも取ってきたばかりの煎餅と、皿に乗った煎餅を入れ換える。手に持っているだけでも、双方の違いが全く分からない。
「おおっそうだ!肩を揉むのを忘れているではないか。物悪れも大概にしてくれ。この茶もやはり冷めてしまったから、淹れ直しだな。ちゃんと茶葉から入れ直せよ。うむ、やはり煎餅はこの歯ごたえがないと。どうも腹が減ってしまって・・・何?これだけしか持ってこなかったのか。こら、もうひとっ走り行って、後2缶程持ってこい。」
「はっはい!えっ?!もう一度良いですか?!?」
パロマの頭の中はナイトメアの命令で溢れ返る。一から順々、ご希望通りに従順に対応する。缶二つはさすがに重くて、取りに行った帰りは走る事が出来なかった。
一つの缶でさえ、相当重かったのだから、中に詰まった菓子の量は到底ナイトメア一人の腹に収まりきる量ではない。それをあと二缶も要求してくる矛盾を、急に暗転した夢からの動揺のせいで、パロマの鈍い思考回路はサラリと流してしまう。
文句を言う隙も与えず次々と注文を繰り出してくるので、パロマも従わなくても良い筈なのに律儀に従う。
やった事のない肩揉みに四苦八苦していると、
「パロマ。」
肩越しに声をかけられた。
「何ですか?」
名を呼ばれてヒョコッと横から顔を出すと、


「バァカ。」


理由も言わずにこき下ろされた。


―――な・・・何なの・・・・何だって言うの・・・・?!

ナイトメアの態度が、理解の枠を超え過ぎている。
気力も体力も失ったパロマは肩を叩くのも忘れ、唇を戦慄かせて棒立ちになった。
もちろん、後ろを振り向かなくったってパロマがどういう表情をしているかモロ分かりだったナイトメアは、平然とした態度でこれまたゆっくりとお茶の味を堪能した。
ナイトメアはあんまりにも理不尽な夢が続いたので、憂さ晴らしがてら、百叩きの刑を執行しにやってきたのだ。
ここには、武器も内職も、太陽光さえも無い。
我儘な人種も野蛮人も、奇人も変人も、脅迫大好き人間も、バカみたいな音痴もいない。
いるのは、とっても使い易い、手に馴染んだ、可愛い『玩具』だけ。
ナイトメアは一口含んだ茶を喉に流して、ホウッと至福のため息を吐く。





―――はぁ〜。ここの夢が、一番居心地が良い・・・







                     
お後がよろしいようで m(==)m



どうもありがとうございました☆




これからちょっとした短編を挟みたいと思います〜♪
最近時間が取れず更新が停滞気味です。申し訳ありません。更新する気は満々なので、気長にお待ち頂けるとありがたいです。














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