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「え・・・っ?あ、あれ?」
視界が突然、現実味を帯びた。
パロマは思い通りに動く頭に戸惑いを覚える。
色取り取りの小花が咲き溢れた美しい花畑の風景が、大きな渦を巻いて暗転した。意識だけがのんびりと空を漂っていたのに、背景が変わると共に身体を取り戻し、パロマは夢から覚めたのかと一瞬錯覚する。
「おい、茶はまだか。寝ぼけている場合ではないぞ。チャキチャキ動かんかチャキチャキと。」
ほわわんとした癒しの空間が、見知った物へと様変わりしていた。
お馴染のローテーブル。座イスが二台。茶菓子の詰まった缶と湯呑に急須。
そしてナイトメア。
「まだ・・・夢の中、なの?」
イマイチ現状が把握しきれていない。夢から覚めたと思った先はこんなに手足を自由に動かせるのに、未だ眠りの中だなんて。
「茶請けの準備も抜かるなよ。それが終わったら至急私の肩を揉んでくれ。最近肩凝りが酷くてな、全く直らん。」
頭を振りつつ首の骨をボキボキ鳴らしているナイトメアをぼけぇ〜っと眺めるパロマ。ナイトメアは一連の動作を終えると、まだボサッと突っ立ったままのパロマに向かって「早くしろ」と言わんばかりにムスッと睨みつける。
「あっ!は、はい。お、お茶でしたっけ?今すぐ用意します。」
ナイトメアの視線で我に返ったパロマは慌ててローテーブルに近寄り、茶の準備に取り掛かる。ポンっと軽快な音と共に、茶葉が詰まった缶の蓋を開けた。
(どうして・・・・ナイトメアさんが・・・・・・)
パロマはこっそりと、座イスで踏ん反り返っているナイトメアを盗み見る。
夢に彼がいるのは不思議な事ではないが、こうも強引に割り込んできた感じで姿を現したのは初めてだ。
(何で??)
腑に落ちない所はあるが、慣れた手つきで茶と菓子の準備に勤しむ。この場には二人きりしかいないので、命令する側とされる側の線引きがいつの間にやらなされていた。
黙って座っているナイトメアの前に、時を置かず湯気を立ち上らせた上品な茶と煎餅が乗った皿が置かれた。
彼は「ふむ」と満足げにまずは煎餅に手を伸ばし口に含むと、途端に渋い表情に変わった。
「何だこれは。湿気っているではないか。」
パロマがそれに「えっ?!」と声を発して驚く。夢の中でも空気が乾燥したり湿気たり、そもそも食べ物が古くなる事があるのだろうか。
「出す前に気が付かなくてごめんなさいっ。私も一枚良いですか?」
ナイトメアに断りを入れてから、パロマもテーブルにのった木の器から煎餅を一枚手にし、口に咥える。すると、


パリンッ


「・・・・・」
煎餅が二つに割れる軽快な音を発した。
十分に噛みごたえがあり口の中でゆっくりと細かく噛み砕けば、香ばしい香りが口一杯に広がる。


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bkm


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