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急に闇の空気が怪しく渦巻く。ブラッドの背後からザワザワと、ウヨウヨと。
「必ず報復されると、何故思わない。それとも今、お前が夢の語り部から聞き及んできた我が組織の噂話が嘘か誠か、その身を持って、思い知りたいか。」
とぐろを巻く大蛇の如く、大気が戦慄く。闇から何が生まれようとしているのか、光に当てられたナイトメアさえ浸食する勢いだ。彼はヒュッと息を飲んで、手を伸ばしてくる闇から逃げ惑う。 蠢く淀んだオーラは、ブラッドの怒りそのものの様に増殖する。 後少しで光さえも呑み込む、という所で、
「とまぁ、今のは冗談だがな。」
フフと笑うブラッドに、ナイトメアはズコッと腰を抜かした。
(な・・・・・・っ)
大気の怪しい動きが一切無くなっている。
おどろおどろしい暗闇を初めはびくついていたナイトメアだったが、先程の恐怖が過ぎ去ると静かな空間がまるで天国にも思えてくる。
「噂話はあくまで噂。真実もデマも、かき混ざって大きく肥大するものだ。残虐な悪事はすべてこちらのせいにされる。全くをもって解せないな。」
ブラッドはそう言うが、それは一般論であって帽子屋屋敷には相当しない。
噂はすべてが真実。
鬼だ悪魔だと称されるブラッドの怪奇現象とまで言われる世に広まった噂は、人を怖がらせる為の作り話等ではなく、実際に彼が通った軌跡なのだとナイトメアは知っている。
この男は、血も、涙も、本当に無いのだ。
ナイトメアが椅子から落ちたまま固まっていると、
「何せ私は、臆病風に吹かれた小童だからな。」
(ひぇぇぇぇっっっ・・・)
地獄耳のブラッドは、やはり仕返しを忘れない。
ナイトメアの威厳も自尊心も羞恥心も殆どが消滅した。
何時から口を開いていないのか。
まるで、洗脳されたみたいに、言葉を発する事が出来ない。
そこは夢の中なのに、ブラッドだけの独占場だった。
何も喋れないナイトメアに、ブラッドは立ち上がって鋭い一瞥を投げる。
「あいつは力も弱いが、心も弱い。意気消沈した所を夢の中で叱咤激励されれば、多少は気力を取り戻すだろう。―――だかしかし、許せるのはそこまでだ。」
暗がりから見えたブラッドの表情は『マフィアのボス』たる物だった。
「今度余計な入れ知恵を吹き込んだら・・・そこまで言わなくても、分かるよな?」
ナイトメアが干からびた喉を鳴らす。
悪人面のブラッドは何か悪だくみを思い付いたか、クツクツと笑い出した。
「そうだな、出しゃばりな芋虫は見るも無残に斬り裂いて、鳩の餌箱にでもぶち込んでやるか。とびきりの珍味にあいつも喜んで食べる事だろう。一度試しに、やってみるか?」


一度やったら、命はない。



ナイトメアは血を抜かれてザクザクと千切りにされた自分を思い描いてしまった。




―――うっ、うっひゃあああ!闇の帝王っやはり恐るべし!!!!!!!







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bkm


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