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「いきなりどうした?誰の話をしている。」
そこでナイトメアがハッと口を噤んだ。
ブラッドは絶えず『小鳥』の話をしていたのだ。特定人物に関して語っていたのでは無い。これでは、ナイトメアがパロマに関与していたと自ら認めた事となる。
暗くて全く表情が見えないのに、ナイトメアには何だかブラッドはあくどい微笑を浮かべているのがありありと分かった。
「まぁ、そういきり立つな。まだ続きがある。森に逃げたあいつは、この世界の地形を全く知らなかった筈。誰も教えて無いからな。我が領土の森は複雑に入り組み、飢えた野獣が獲物を求めてそこらじゅうにのさばっている。そして、後方はその森を熟知した部下達が開いた距離を着々と縮めていた。いくら足に自信があろうとも、脆弱な女一人が逃げ切る可能性は無いに等しい。―――それなのに、どう言う訳か・・・逃げ切った。」
ナイトメアが認めた為にブラッドはもう例え話を止めたのか、パロマの話題だと隠しもしなくなった。ナイトメアに焦りが募る。その時パロマの見ていた夢が事細かく鮮やかに蘇る。
(な、何て・・・助言をした?!私はっ!!)
「逃げ切ったは良いが、やはり力尽きたのか、結局のところ他領土で捕まってしまったがな。」
(・・・・ん?)
ブラッドの話の結末は時計屋に向かっていたのか。確かに可愛がっていた女が、別の男と寝食を共にしていたと知れば良い気はしないだろう。だか、これで責を問われる事は無いとホッと息を吐いた所で、
「―――捕えられた事はさて置き、そこで問題視すべき点は・・・裏で手を貸した、『誰か』がいると言う事だ。」
ナイトメアに痛恨の大打撃。
ちょっと気を緩めていた分、それが二倍になって襲ってきた。
すこし前屈みになったブラッドの表情が少しだけ光に当たる。
(・・・っ!!!)
笑っていると思っていた顔は、全く笑ってはいなかった。
自分には重いが、相手は軽く話していると思っていた話題は、実は相手も軽く話してはいなかった様だ。
反抗心を根こそぎ奪うマフィアの鋭い瞳が冷たく光り、『それは、お前だろう』とギリギリと責め立てる。
しばらく無言の時が続いた。
ナイトメアの汗が顎の先からボタボタと地面に滴り落ちる音だけが響き渡る。
相手の恐怖心を煽りに煽って、弱り切った所でまたブラッドが切り出した。
「随分甘く見られたものだな。本気で私を出し抜こうと思っていたのか?それとも気付かれまいと余裕をかましていたか。」


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bkm


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