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暗い闇が広がる。
いや、闇とは違う完全なる漆黒。掌を目の前に翳しても指の先さえ見えないこの空間は、どこまで広がっているのかも推し量れない。
何も無い。
もの音もしない。
己の感覚すらない。
身体を方々に動かすも、見えないし音も聞こえなければ、ちゃんと動けているのか疑問に感じる。
神経は張り詰めるばかりなのに、この生温い様な怠惰な気持ちを引き摺り出そうとするような気だるさは何なのか。
「暗くて何も見えん。・・・お〜い!誰かぁ・・・いないのか〜・・・・・・」
ナイトメアの声は初めだけ大きく、それからどんどんか細く、そして最後は尻つぼみで終わった。
誰の夢だか、分からない。
自分の見知った誰かが返事をくれるものと大声を出したが、途中でハタと気付いたのだ。
数々の夢を訪れたが、ここまで黒い夢は、無い。
まさか、この世界にいる摩訶不思議な怪物の夢になんて迷い込んでしまっていたらと、戦々恐々としていると、
自分のいる位置より少し先で、ジュッと火が灯った。
「ひぃぃっ!!!」
小さな光が現れただけで、腰を抜かしそうな程驚いてしまった。自分で描いてしまった空想に囚われ過ぎていた事に気付き、「ゴッゴフンッゲフン!」と無理無理咳き込み、気の小ささを誤魔化すナイトメア。
(かっ怪物が夢等見るかっ!落ち付けぇ落ち付くのだぁ・・・・)
真っ暗闇から牙を向いた大怪獣が、パックリ口を開けて突然襲いかかったりなんてしない、と必死で自分に言い聞かせる。
すると、炎の近くから笑いを抑えられずに噴き出す声が聞こえた。
明らかに人だ。
ナイトメアの威厳と自尊心と羞恥心のバロメーターが一気に回復した。
「そこにいるのは誰だ!!闇に隠れていないで出てきたらどうだ!このっ臆病風に吹かれた小童め!!!」
ムカムカしながら赤い点の軌道を目で辿っていると、次なる物へと点火する。途端に煙る独特な匂い。
ユラユラと動く紫煙を生み出すそれは・・・煙草か。
すると突如、目が眩む閃光がバッとナイトメアを包んだ。まだ怪物の夢疑惑が晴れていない為、一瞬怯んでしゃがみ込む。闇に慣れた瞳が明るさに酔ってクラクラとする。その光はどうやら彼だけを照らした照明の様だ。何故なら、自分以外は変わらず、先の見えない闇の世界に包まれているのだから。
するとまた、堪え切れずに笑いを噛み殺す声がした。
ナイトメアだけが煌々と照らされているのだから、相手には丸見えなのだ。
(何だこの理不尽な夢は!馬鹿にしおって!!)
しゃがみ込んでいた恥ずかしい失態に気付き、慌てて立ち上がりしゃんと背筋を伸ばす。
そんなナイトメアをあざ笑うが如く、淡い煙草の火がユラリと揺れる。
対面する位置にいる男が、ククッと笑って、紫煙を吐き出す。煙草の光に当てられ、その人物の輪郭がうっすらと浮かび上がる。


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