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「わわ私はだな、世の理の傍観者であって、介入者では無いのだ。私の不用意な一言で世界の均衡を崩す訳にはいかんだろう。」
「だが、その不用意な一言によってパロマは惑わされ、単身ハートの城にまで乗り込んだのだろう。役持ち達の暴走は、世界の均衡を崩すのに遠く及ばないと思っているのか。」
「いやっ・・・だから、それはっ・・・」
黒くした筈のオセロの石が簡単に白にひっくり返される。この男に隙は無いのか。
「あの二人を上手く引き合わせられたら、それだけで良かったんだ。私があの時、背を向けたあいつを無理矢理にでも留まらせていれば、今あの男の元に等・・・っ」
(・・・んん?何だ??今、少し、隙が見えたぞ・・・!)
ガードが緩くなったユリウスの心を覗くと、一つの場面が浮き彫りになった。夕焼け色に染まった草原、そよ風に揺れる草花の中に、泣きそうになっているパロマ一人が立っている。大声で何かを叫び、泣くのを払拭する満面の笑みで大きく手を振って、そして背を向けて走り去って行く。
―――はっは〜ん。成程な。
優位になれる情報を入手し、ナイトメアの口角が上がる。
「断っておくが、パロマが今現在帽子屋屋敷の領土にいるのは、私は一切関与してはいないからな。飽く迄帽子屋が単身でやった事だからな。」
「そんな事は分かっている」とユリウスは呟いた。自分でもその事実を認めたくは無いのだろう。ナイトメアの連敗記録に光の兆しが見え出した。
「舞踏会の時に、パロマの気持ち推し量ってしまったせいで、強く出られなかった私が悪い。まさかあの男があそこまで素早く行動に移すとは。不覚にもあいつの腹黒さを忘れてしまっていた!」
常に冷静なユリウスの声を荒げて悔しがる姿なんて、中々お目にかかれるものではない。ニヤニヤするのを隠しきれずに話を聞いていると、
「それで?パロマにはしっかり伝えられたのか。」
急に話を振られて、ギョッとたじろぐ。
「なっ何?!・・・・・ああっ、この前の。もっもちろんだとも!正確に伝えてやったぞ!『パロマが帰って来ないから時計屋が寂しがって泣いてい」
「伝える言葉が違う!!!!」
ユリウスの怒りの稲妻がナイトメアに直撃した。どうやら彼の怒気の矛先はナイトメアに向かった様だ。
「私は一言あいつの本心を聞いてこいと言ったんだ!あの悪の巣窟から外に出て来ないのは、逃げたくても逃げられない何か理由があるのではないのか。パロマの胸中が誰にも知られず苦しんでいるのなら―――それさえ分かれば、私は正面切って奪還しに行く決意さえある。」
拳を震わせ胸の内を暴露するユリウスに、ナイトメアが額に汗を浮かばせて無理にカラ笑いをした。
「はっはは・・・。お前冗談が下手だな・・・面白くも、何ともないぞ?」
そこは冗談とすべき所だ。類の無い役持ちの一人が言って良い台詞では無い。ナイトメアは軽く流そうとしたが、それなのに、
「私が冗談を言っていると思うのか?」


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