22
「審判の間は最早元には戻らんだろうな。修復機能が起動するであろう時は充分過ぎている。素晴らしい文化遺産が、惜しい事をしたものだあ。あの事件は後世にも語り継がれるな。」
いくら話しても、場の雰囲気は回復しない。ナイトメアが殊更明るく相手をよいしょする。
「い、いやぁ〜、お前がいなかったら、事態の収拾がつかなくなったあの場はどうなっていたか。役持ちの一人位は時の針を止めていたやも知れんぞ。事なきを得て良かった、良かっ」
「何が良かったんだ。」
ずっと口を閉ざしていたユリウスがようやっと話し出す。
第一声から否定的だ。声も一段と低い。
ナイトメアはビクついて良く動いていた舌を噛んでしまった。
「穏便に済む所をワザと窮地に追いやっておきながら、どの口が言うんだ。」
すでに以前の夢で、パロマがここに来た経緯、夢の中で手を貸していた事実は一切合切白状させられていたナイトメアだった。この男に掛かると、言い訳や責任転嫁等の小賢しい手が一切使えない。洗いざらいを自白し、アリスには誤魔化せた『穴の塞ぎ忘れ』に関しては既にきつ〜く灸を据えられ済みだ。
しかし、すべての責を負わされる謂れは無いと、ナイトメアは胸を張る。
「ならば、私がやったと言うのか?夢の中から現世に何処からともなく舞い出て、歴史的建造物を直接的に攻撃したとでも?違うだろう。すべてお前達が独断で引き起こした惨劇だ。」
「直接的にでは無くても、間接的になら大いに影響力を与えていただろうが。」
滔々と論じてもにべも無く否定され、ナイトメアは切羽詰まってきた。
「パ、パロマだな?あいつの事を言っているのだろう?!見当違いも甚だしいそ!!あいつの突拍子の無い衝動を誘発した覚えは無い。向こうから求めてきた問いを、微量ながら導き出してやっただけの事。答えは自ずと見出し、結果ああなったのだから、私の知り得る事では無い!」
唾を飛ばさん勢いで反発するナイトメアに、ユリウスが瞳と瞳を合わせる。途端にヘビに睨まれたカエルの如くナイトメアに脂汗が沸き出る。
「導いたのだろう?誘発しているじゃないか。」
「ぐ・・・っ!」
自分の意見が正しいと言い連なっても、一言二言で簡単に覆される。
実は口八丁が十八番のナイトメアでも、清廉潔白なユリウスに口で負かした事が一度も無い。出だしはナイトメアの方が良いのだが、気付くと会話の主導権は相手側に移り、最後は肩身を狭くして苦渋を飲まされる羽目となる。そして今回も例にたがわず、フワフワと主導権が移り行く。
「そもそも助言が間違っている。伝えるのなら正確なアリスの現状、二人が難なく会える手立てを施してやるのがお前のやるべき事だったんだ。何が導き出しただ。自分にとって面白可笑しい方向へと進ませただけだろう。」
「なっ!何を根拠にそんな暴言をっっ!!」
「それならば何故、アリスにパロマの存在を伝えなかった。あいつは私が話して初めてそれを知った。パロマがこの世界に迷い出でどれ程かは知らんが、その間にアリスの夢に何度お前は現れた。」
ギクゥゥッとナイトメアの肩が上がる。その理由は簡潔に言うと『そっちの方が断然面白そうだから』と、ユリウスが言ったまんまだ。しかし、ありのままをユリウスに伝えるのはさすがに分が悪い。


prev next

244(348)

bkm


top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -