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「ああ、その写真が気になりますか?それは記憶に新しい一枚です。この前陛下のお伴をして城下に向かったアリスが・・・・・」
ペーターの言葉がピタと途絶えたので、何かあったのかと写真から顔を上げると、
「なぬ?」
頬をポッと赤らめたペーターの後ろに、巨大なハートの物体が出現した。
「話の途中でしたね、すみません。少々思い出してしまって。フッ・・・まさかアリスが僕に・・・・フフフッ。」
先に進まないペーターの話なんぞ、どうでも良い。
彼が頬を染めているだなんて前代未聞の出来事だが、そんな事も横に置いておいて良い。ナイトメアの視線が釘付けになっている先には、ポワンポワンでプルンプルンの何やらでっかいハートマークが夢の主と同調して喜びに弾んでいる。
「お・・・おい。う、後ろを見てみろ。」
「話に横槍を入れるなんて野暮というものですよ。ええ、実は僕も誰かに話したくてウズウズしていたんです。陛下の苛々する買い物に付き合わされて心身共に疲れ果てていたでしょうに、アリスは、信じられない事にアリスは僕にだけプレゼントを・・・・っ!」
「いやいや、そんな事は良いから!兎に角一度振り返ってみろ!!」
ボワンッ!ボワワンッ!とペーターの後ろに次々と量産されるハートマーク。小さければ愛らしいだろうに、ペーターの情熱を糧にしているのか巨大化したそれ等は存在自体が驚異で、生命の危機さえ感じる。
ナイトメアは危険区域と見なした場所からジリジリと後ろに下がる。
すると、「頂いた物もお見せしましょう。」とペーターがクルッと後ろを向いた。
―――!!!!!
やっぱりだ。危険物質はやっぱりナイトメアに向かってきた。
ペーターが背を見せた為に、巨大な物体達もボヨンボヨンと移動しナイトメアに襲い掛かった。「うおっ!」と思わずすっとんきょうな声を発し、急いで逃げようとした所で一体に足を踏まれて、ステーッンと転ぶ。慌てて体勢を起こした瞬間次のハートの怪物がナイトメアを潰しに来た。
「ありました、ありました。これです。本を選ぶだなんて、クスッ。彼女らしい。『この本を読み切る位の時間は作りなさい』って、休みの無い僕の事を気遣ってくれたのでしょうね。それとも一緒に読もうのお誘いだったのでしょうか。いや、そうに違いない。」
そっと本の背表紙を撫でるペーターは後ろの惨劇に全く気付いていない。
ナイトメアはゼリー状の物体に落ち潰されて、話の相槌さえ打てない。いや、最早話すら耳には入っていないのではないか。必死で軟らかなハートを押し返すが、如何せんすべやかで掴み所が無ければどうする事も出来ない。
ペーターが幸せな気分になればなる程、ギューギューと押し寄せてくる凶器。
何とか顔を出せたナイトメアは、あらん限りの声で叫ぶ。
「気持ち悪いんだ!お前の夢は!!早く現実を知れ!!!アリスはお前が思っている程、お前の事を好きではウ!!!ッップいっ息が・・・っ!!!!」
聞きたくない言葉は己の耳を塞ぐ、ではなく相手の口を塞ぐ。
急にハートマークの質量が増え、さらにナイトメアを圧迫してくる。






ギューギューギューギューと押し潰されたナイトメアは、夢の中で白目を向いて気絶した。







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