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「おおっ!この場面は私も知っているぞ!!女王が夢の中でさも可笑しそうに語ってきたから、あいつ目線で記憶を辿った覚えがあるが・・・いや待て?この写真、何かおかしくはないか??」
ナイトメアが指差したのは、真っ赤な薔薇の花束を両腕に抱えて、嬉しそうにペーターへ微笑むアリスの写真だった。まるで恋をしたての少女の様に瞳がキラキラと輝いている。
「ああ、これは僕のアリスが城へと滞在地を変更してくれた御祝いに、純愛を彩る赤い花ばかりを集めてブーケにして送った時の写真ですね。彼女の表情が喜びに溢れているでしょう?」
「いや?そんな顔はしていなかった筈だそ。確か、異臭を放つ花が混じっていて、アリスがしかめっ面した所に、匂いに釣られて蜂が大群で押し寄せてきて、あいつは恐怖に顔を引きつらせながはを駆けずり回った後に、その花束を使ってお前を散々叩きのめしたのではなかったか。女王の記憶では猛獣と化したアリスが映っていたが。」
そこでハタッと二人が見合う。
「何の話でしょうか。」
「お前っ!記憶をねつ造したな!!」
二人同時に言葉を発する。
「いくら己の心覚だとしても、塗り替えるとは言語道断!ああっ!!!まさかこれも!あれもではないか!何だここはっインチキ宝物庫か!!」
「人の夢で何を笑止千万な。記憶が残っていると言う事は、それが正しい過去なのですよ。」
ペーターの手の中で、アリスのヌイグルミが可愛らしく『うんうん』と頷く。・・・と見せ掛けて、ペーターが後ろでちゃっかり頭を動かしていた。
「な〜に〜を夢を司る私に向かって正論ぶってハキハキ答えておるのだ。話のレベルが問題外だ。しかも、どれもこれも、視線が映写機を捉えていないではないか。要はお前の視線すらあいつは気付いていないと言う事だ。」
アリスの頭の天辺から映っている物やら、周りが草で覆われた隙間から少しだけ覗けるアリスやら、遥か遠く米粒台のアリスやら。この男は一体どこからアリスを見詰めているのか。
「重度のストーカーめ。」
ボソッと悪口を言うナイトメア。ハッキリ言わないのは、アリスに囲まれて幸せ気分に入り浸っているペーターには何にも届かないのは分かり切っていたし、言った所で改善される余地が無いのも明らかだからだ。
この過剰な執着心が引き金となり、アリスが今この世界に居着いて、ついでにパロマもくっ付いてきた。
些細なきっかけに、ナイトメアは苦笑した。
その小さな振動に触発されて、役持ち達の針がブレ始めている。
うんざりする位単調で怠惰な時の数々が少しずつ、少しずつ、乱される。
嗚呼、この世の理はなんと脆く、儚いものなのか。そして新たに輝きを増して再生する。
目が離せない程、キラキラと眩しい程に。
ナイトメアが顔中真っ赤っかに染めたアリス写真を呆れ半分で眺めていると、


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bkm


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