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「勝手に人の夢に忍び込むなんて、これは明らかに不法侵入罪に値しますよ。」
ナイトメアの前にはカンカンに怒った白ウサギがいる。
「さらには私物を許可なく盗み見るとは、度を越したプライバシーの侵害です。」
次々と繰り出される痛烈な批判を物ともせず、ナイトメアは唯立ちつくす。
「そんな生き恥を曝しながら生に縋るとは恥ずかしくはないのですか。今すぐ息絶えるのが世の為、そして僕の為。」
キッと鋭く睨みつけてくる視線に対して、逆にジトッとした疑惑の眼差しを返す。


「・・・・・お前の夢、気持ち悪い。」


「何て事を!失礼にも程がある!!」と怒り狂ったペーターの周りには、数多の写真がフワフワと漂っている。
ポスターやプロマイド、コマ送りの写真もあれば、等身大まで拡大された物まである。
何処かで商品化にでもなっているみたく、イラストになった色違いのクッションや形に沿った抱き枕まである。
そしてそれは、驚くべき事にアリスしかない。
可愛らしく着飾って微笑むアリス、拗ねて頬をプクッと膨らましたアリス、スヤスヤ眠っているアリス、アリスアリスアリスアリス・・・。
「お前の夢、気持ち悪い。」
ドン引きのナイトメアが、大事な事なので二度告げた。
「これらは僕の何よりも替え難いコレクションなのです!貴方にどうのこうのと言われる筋合いは微塵もありません。貴方には目にする資格さえ無い。早くその煩わしい眼球を自ら潰してしまって下さい。」
そう冷たく言い放つペーターの手には、これまたアリスのミニチュア人形が優しく握られていた。
宰相という地位のペーターが醸し出す清淡な佇まいと、胸に抱いたマニアックなヌイグルミとのミスマッチさがナイトメアの引き具合を増長させる。
「前にも言ったが、これはお前のコレクションではない。お前の知識から生み出された空想や妄想や過去の思念物、写真に関しては言うなれば残像だ。過去の記憶をこれ程までに鮮明かつリアルに再現できるお前が、私はさらに気持ちが悪い・・・。」
どの写真を見ても、ブレたりボヤケていたりする物は無い。きっと睫毛の本数さえもアリス本体とそっくりそのままなのだろう。
しかし、アリスに囲まれて至福の時を堪能するペーターには、ナイトメアの嫌味等ちっとも堪えない。
「僕とアリスの思い出なら何一つ霞む事はありません。あぁ、すべてが目の裏に焼き付いて僕の心から離れない。―――この写真は初めてこの世界に来た時に、僕に向けたアリスの表情です。可愛いでしょう?こんなにも頬を薔薇色に染めて、すこし上向きの眉もとても凛々しくて彼女らしい。」
「―――私には怒りで歪めた鬼の様な形相のアリスにしか見えないが。しかもその後グ―で殴られたのだろう?・・・しっかし、皺の数まではっきりと数えられそうな鮮明度だな。」
写真に顔を近づけようとした辺りで、さっと写真を遠ざけられた。醜く崩れた表情でも、それがアリスのものである限り、距離を詰めてはいけないらしい。
「チッ」と舌打ちをして、ナイトメアは視線を逸らす。するとその先に、見知った風景の写真があった。


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