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「おぉ〜い・・・。そんなに、落ち込まなくても・・・。」
ずぅぅんと肩を落としたボリスの夢は、夢の主の気分と同じく空気も重い。
湿気も含んで、ジメジメと肌に纏わりつく陰気さを伴っている。
毎度毎度こんな陰湿な夢を見ているのかと言ったら、そうでは無い。それそこ湿度の無いカラッとした夢の中、ボリスはいつも人付きの良い笑顔でナイトメアに接し、夢の中でこそ実現出来るまさに夢の制作物に取り組んだりしている。
(ここまで気落ちをしているのは、あの時以来か?ま、どうせ今回も理由は同じだろうがな〜。)
ナイトメアに背を向けて縮こまっているボリスは、耳も尻尾も可哀想な位垂れて『元気』の『げ』の字も見当たらない。
ナイトメアもこればかりは慰めに掛かる。
「余所者は時に縛られず、滞在の自由がある。そんな事はお前だって百も承知の筈だろう。何を今更また傷付いているのだ。」
ボリスはそれに対して「ほっといてくれ」と投げやりな返事をする。
「いいよ、もう。俺なんか。アリスは俺の事なんかどうだって良かったんだよ。遊ばれてたんだよ、俺。」
自暴自棄になったボリスは夢の中で本性をさらけ出す。アリスは、遊園地には帰らずハートの城を滞在地にした、とこの前の舞踏会でハッキリとボリスに告げていた。それはボリスを捨ててペーターを選んだと言っているも同然だった。
玉砕だ。
あの白ウサギのねちっこさにアリスだって嫌気が差してすぐに帰ってくると、淡い期待を捨てきれなかったせいで、アリスが告げた直球の告白がダイレクトにボリスへ響いた。
夢の中ならもうどうだって良いと、やさぐれ具合が半端無い。
(こりゃ、ダメだ。)
ナイトメアは必死に慰める言葉を思いあぐねる。
「う〜む。そうだなぁ。男冥利に尽きるというものか?女に玩ばれるなんて向かう所敵無しの役持ちには中々出来ぬ経験だぞ。貴重な体験が出来て良かったではないか。」
それを聞いて、ボリスの耳がピンと立った。目に正常な光が宿った。少々その眼差しの鋭さにキツ過ぎる感が否めなくもないが、兎に角ナイトメアの思遣りがある意味功を奏した。
「何だって?」
射抜く眼差しは、ちょっと前までズゥンと落ち込んでいた男の物とは思えない強さを孕んで、ナイトメアを標的にする。
「は?じゃ、ナニ?俺だけは他の奴等と違って?とんだ間抜けだとでも言いたいのかよ。」
声も鋭さが増し、ボリスがスクッと立ち上がる。やっと正気に戻ったかと、ナイトメアが更に言葉を重ねる。
「ま、役持ちだとて毛嫌いされる事もあろう。あまり事例は無いやもしれんがな?モテナイ男こそ経験値?を積んでだな〜、次にステップアップ。一度や二度程度破局を迎えようとも、そこをバネに這い上がるのが世の漢だと、この前チラと目を通した書籍に書いてあったぞ。私には俗世の事等計り知れんがな。」


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bkm


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