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ナイトメアにとって、エリオットの夢は比較的楽な部類だ。
ほっとけば良いのだから。
自他共に認めるインドア派にとってこの炎天下は正直厳しい所があるが、自分の居場所は塗り替えれば良い。ぽっと出来た休暇を楽しむが如く、自分のやりたい事を自由にやる。
しかし、今回からはそう簡単には済まなそうだ。
席について「さて食べるか」とフォークを手にしたエリオットが、突然ナイトメアの存在に気付いた。彼はセカセカとハンモックの準備をしていたが、そんな事はどうでも良い。
「おい、ナイトメア!」
今までこの段階で呼ばれた事が無かったので、ナイトメアがポカッと口を開けて視線をエリオットに向ける。
「俺、今更気付いちまったんだけどよ、あんたもしかしたら、俺から声掛かんの待ってたか?」
(は??)
エリオットが全くを持って今更な事を、突如思いつきで言い出した。
立派な日除けの下に完成したハンモック。その高さとピッタリあったテーブルには栞が挟まった本とキンキンに冷えたドリンクが。
明らかに一人の時間を満喫しようとしているナイトメアに対して、「マジで済まなかったな。」と見当違いな詫びを入れてくる。
「つ〜かさぁ、俺の周りには礼儀とかそんなん気にする奴なんかいなくてよ。やりたい事あったら勝手にやってっからな〜。毎回毎回、こんなスゲエ食いもんが目の前にぶら下がってんのに、一口も食えねェんじゃ、マジで辛かったんじゃねぇの?」
「ないないないない。そこは気にするな。私の事は空気と思え。」
気を回して貰わなくっても、勝手気侭にやっている。それなのに、エリオットには謙遜と取られてしまったのか、同情的な表情に変わり、急にガタガタと椅子をもう一脚準備した。
(ナニ???)
「良いから良いから。今まで気付かなかった分、今回は好きなだけ食べてけよ。そんな俺に気ぃ使って、コソコソ隠れてねぇで良いんだって。」
―――伝わっていないのか?!
このゆらゆら揺れるアイテムはリラックスを求める為の物で、決して気配を消すのに使うのでは無い。近くにあるナイトメア専用のドリンク等が見えないのか。
屋敷内で開かれる茶会でも、エリオットは嫌がる仲間にお勧めの品々を食べさせる。
嫌だとハッキリ発音しても、食べるまでごり押ししてくる強引さは、ブラッドでさえ毎度毎度手を焼いているのに、まだ未経験のナイトメアが避けられる筈が無い。
「とりあえずここ座っとけ!皿は〜、ああ、これで良いか。ほら、どれから食っとくか。」
「おっおい!は?何っ痛っっ・・・はあああ?」
ハンモックに登ろうをしていた所を無理やりひっぺ剥がされて、引き摺る様に椅子に座らされてしまった。そして目の前に広がる世界に、ナイトメアの顔の色が変色する。
大皿に乗った料理は、どれもこれもオレンジ色。赤に近いオレンジや、黄色っぽいオレンジ、オレンジオンリーのグラデーションが広がっている。
単なるパンや、焼いただけの肉等無い。そして更なる緑黄色野菜が皿の淵ギリギリまでを飾り立てる。
(うっうおぇぇっっ・・・や、野菜しか・・・無いではないか!うげえぇぇっ)
エリオットが何を食べていたかだなんて気にもしていなかった。頭の中が人参なのは知ってはいたが、こうも食卓が橙色だらけだったとは。
ナイトメアの目の前にデ―ンと鎮座するぶっとい人参スティックは、グラスでは無く花瓶にブスブスとブッ刺さっている。これは観賞用ではなく、まさかの食事用なのか。
ムワッと立ち込める青臭い匂いに、胃液がどんどん逆流してくる。


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bkm


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