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「そうだなぁ〜。やっぱり一番ひっかかり易そうなのは、裏庭じゃない?」
ナイフやらハンマーやらボウガンやら、物騒な代物ばかりが乗ったテーブルの上に、軽くスペースを作って湯気を立ち昇らせたマグを3つ置く。
「うんうん。洗い物を干している時只管無心だよな、あいつ。悟りでも開いてんのかね。何であんな雑用に真剣になれるんだろ。」
カラカラと笑いながら、背当ての高いごつめのロッキングチェアーに踏ん反り返って、無作法にも足をテーブルに乗せてユラユラと椅子を揺らして楽しんでいる。
「あいつマジで馬鹿なんだよ。」
たっぷりの砂糖でこってりと甘くしたコーヒーを一口含んで、ダムがニヤッと笑う。
そう、ここは言わずとも知れた、ディーとダムの夢の中。
落ちた照明は相手の顔を仄かに照らす位で、無造作に散らばった鋭利な刃物ばかりがギラギラと淡い光に反射する。
いかにも怪しげな談笑中という場は、未来に羽ばたける青少年の見る夢ではない。
その二人が『パロマ引っ掛け大作戦』と題して、あーでも無いこーでも無いと次々と面白可笑しく案を出し合っている。
ほんの少し前まで、ここの夢は悲惨な物だった。
形が形付かず、歪に歪んで、狂気に満ちていた。
頭脳明晰を誇る二人でも、パロマが絡むとどうしても引っ掻き回されてしまうらしい。
やきもちを焼いていたり、かなり嬉しい何かがあったりと、その時の出来事がすぐに夢にも反映して、ナイトメアはこの二人にも年相応の可愛い所があったのだな〜とほくそ笑んでいたのだが。
(パロマが屋敷から疾走した後の夢は、今思い出すだけでも恐ろしい・・・こ、こわっ!!)
ナイトメアが一人でこっそりブルッと震えた。
非現実的な世界にのみ存在しうるナイトメアは、敢えて万物に干渉しない。双子が脆く壊れそうになっていても、そこは冷酷に真相は伝えずそのまま放置していた。・・・と自分に理由づけて、本当の所は狂った双子に近づくのが怖くて、彼等が夢に第三者が介入してきた事に気付かないのを良い事に、コソコソと物陰に隠れて夢の間をやり過ごしていた。
ディーとダムは、今や以前の夢と何ら変わらず、ナイトメアの目の前で生き生きと語り合っている。
「はぁ〜。ここの夢も、随分明るくなったものだなぁ〜・・・。」
感慨深げに大きく息を吐く。
ナイトクラブの最も奥まった不健康そうな一室の様な場所で、ナイトメアが縁側で日向ぼっこをしているおじいちゃんみたいに、暖かい飲み物を一口啜ってほっとする。
「ねぇねぇ、あのさぁ〜。」
ダムが話しかけて来たので、ことさら優しい笑みで小首を傾げたが、
「さっきっからニタニタしてキモい。妄想ならどっか他でやってくれる?」
「絶対エロい想像してんだよ〜。」とナイトメアを心底気持ち悪がる双子に、一転して殺意を覚えたのは仕方がない事だ。
この双子にこそ今まさに、読心術を伝授したい。パロマ如きに右往左往させられて、帰ってきたら途端にカラッと笑っている二人を、逆に笑ってやりたい位なのを気付かせてやりたい。



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