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しかし数歩行った所で、何が気になったのかパロマに向かって振り返った。
「・・・どうした。いつまでそこにいる。」
「こ、怖すぎて腰を抜かしてしまいました。」
「―――そうか。」
そして今の会話は無かったかの様に、ブラッドはまたスタスタと歩き出した。
もうすぐ曲がり角という所で、豪快な舌打ちが聞こえて、ブラッドは大股で靴音を響かせながら、パロマすぐ近くまで戻って来た。
その間、パロマは全く動けず、彼の不思議な行動を目で追っていた。
すごく冷たい目で見下ろされて、何をされるのかとビクビクしていたら、彼は徐にパロマの前にしゃがみこみ、彼女の両腕両足の下に腕を入れて抱き上げた。
(お、お、お姫様抱っこじゃない?!これ!)
ブラッドはそのままスタスタと来た道をまた戻り出す。ゴクッと唾を飲み込んで、パロマは言わなければいけない台詞を思い出した。
「あ、あの、ありがとうございました。」
「礼は結構だ。」
目も合わさず、何も持っていないのと同じ速さで歩き続ける。
―――私を救って、くれたんだ・・・。
もう姿の見えない男達の露骨な表情が頭に甦る。
逃げ場も失い、もうどうしようもなかったのだ。パロマはもし彼が助けに入ってくれなかったら、と考え真っ青になった。そして、今もこうして力が入らないパロマを気遣ってくれている。
(案外気の優しい人なのかもしれない。)
パロマは少し頬を赤く染め大人しくしていると、


「そのまま放っておこうと思っていた。」


彼の爆弾発言に、パロマは鈍器で殴られた様な衝撃が走る。
「しかし、それで深く傷ついては伸びる尻尾も出せないだろうし、羽も広がらないだろうからな。」
「し、しっぽ・・・?はね??」
私は何の生き物だと思われているのだろう、と頭に疑問符を飛ばしたパロマだったが、
(そうは言っても、この人は私の事を助けてくれた。)
その事実が、彼女の心の一部を温かくした。


真っ直ぐ進んだ突き当たりを曲がると、その廊下の先に大きな足音を響かせながら、ウサギ耳の彼が二人の方へと走り寄ってきた。
「ブラッドすまねぇ!俺の配慮不足だ!!」
「お前、配慮という心配りが出来たのか。」
一瞬エリオットが、ブラッドのえげつない返答に言葉を失う。
「・・・おいおいおい。とにかく、逃げてきやがった奴等は、後で締め上げておく。こいつは俺の下に置いて目ぇ光らせて―――って、おわっ!!」
別に私が何かやった訳ではない、とパロマは口には出さずに心で反抗していたら、ブラッドが急に腕に抱いていたパロマを、ポイっとエリオットに投げてよこした。不意に宙に浮いたパロマは、心臓が飛び出さんばかりにバクバクした。この無抵抗の状態で、何の予告も無しに、放り投げるものなのか。
「この奴隷は、腰が抜けて立ち上がれないそうだ。後はお前がどうにかしろ。」
ブラッドはそう言い残すと、振り向きもせずにスタスタと歩いて行ってしまった。
後に残ったエリオットとパロマは、しばし茫然としていたが、エリオットの方が先に正気に戻り、
「・・・おいこら、来て早々どうして問題背負込むんだ!!てめぇの事はてめぇでどうにかしろ!そもそも―――」
パロマは抱っこされたままの状態で(言いかえると、逃げられない)、延々とエリオットのお説教を聞く羽目になった。


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