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「え〜、時にパロマ・・・。ここ最近は、どうしているのだ?」
ナイトメアがさりげな〜く話を持ち出す。とてもわざとらしい話の転換具合だったが、それには気付かず、パロマは正直に答える。
「あ、はい。牢屋からは出してもらえたのですが、私の部屋が何故だかすっかり無くなってしまっていて、今は洗濯部屋での仮住まいです。床は冷たいタイルだし、換気口からは風が吹き込んで毛布にくるまっても寒くて。ちょっと、今は辛いです。」
その冷たさを思い出したのか、パロマはブルッと身を震わせて急いで熱い茶を一口啜った。
「は?それは以前より待遇がひどくなってはいないか?部屋が無い・・・・のは、そうだな、大凡察しが付くが。居心地が悪いのならば、同僚の部屋に間借りを願い出れば良いではないか。」
「それはもうやったんです。大部屋の隅で構わないって。だけど、誰も了承してくれなくて。私がお屋敷を裏切ったみたいになっているから、信用を無くしてしまったのかもしれません。私だけ別の部屋を用意しているみたいです。」
とんだ仲間外れだ。パロマの同僚達にも階級があり、それぞれに与えられた部屋があるが、末端の大部屋にさえ入れてもらえなかった。誰もが「それはちょっと」と口を濁して逃げてしまった。パロマはその経緯をナイトメアに話しながら、クスンと鼻を鳴らした。ナイトメアはナイトメアでそれを半眼になって聞いている。
(それは恐らく上司命令と言うものだ。いくら配下の者しかいないとはいえ、そのすべてに目が行き届く訳では無い。大勢の中へ無防備に置いたら、この女の貞操が危ぶまれるからな。パロマに対しては緘口令を敷かれているのか、当面は寝静まった部屋に見張りを立てて、今頃厳重な鍵の掛る部屋でも嬉々として着工中なのではないのか。)
口に出せば良いのに、ナイトメアは頭の中だけで返答する。どうやら教えてやる気はないらしい。
「それから仕事量が増えちゃって、増えちゃって。かけずり回っても終わりません。部屋に帰ると疲れ過ぎて、いつも何も出来ずに泥の様に眠ってしまうんです。夢を見るだなんて、本当に久し振りです〜。」
「ほぉ〜・・・」
「ナイトメアさんにもご無沙汰していましたね」とパロマはニコっと向かいに座る彼に笑いかける。それにもナイトメアは「そ、そうだな」と半笑いで答える。
(過量の激務に埋没させて、前の世界の事等考える隙を持たせないつもりだな。現にパロマから帰る帰らないの話が一切出てこない。)
この世界に来たばかりの頃のパロマだったら、どうやったら元の居場所へと帰れるのか常に模索していた。それが今や、働く事を義務として植え付けられていて、しかもそれに疑念さえないようだ。
変えられてしまった己に気付かないパロマを只見詰めていると、世間話中のオバサンの様にコロッと態度を変えたパロマが、クスクスと笑いながら手首にスナップを利かせて手を上下に動かした。
「でもでも!聞いて下さいっ。実はたま〜に、机の上にお菓子が置いてあったりするんですよ!!実はボスがこっそりやっているって知っているんですけど、本人は私が知っている事に気付いてないみたいなんです〜。ウフフ、可愛い所があるでしょ?頑張り甲斐がありますよねっ」
頬をポッと染めたパロマを、ナイトメアが冷た〜く見詰める。


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