09
「薬なんて自然の法則を全て無視し、人工的に生み出した歪な産物だぞ。文字ばかり長ったらしく羅列しおって、禍々しい化学物質の塊だ。口に入れるのもおぞましい。苦いし。」
次に煎餅に手を伸ばそうとした所を、パロマがサッとお皿を取り上げた。話を真面目に取り合ってくれないナイトメアをジッと見詰める。
「それこそ誰かの受け売りじゃないですか。結局、痛いのと苦いのが嫌なだけですよね。ちゃんと治療しなきゃ駄目です。大人なんですから。ついでにそのどうしようもない思考回路も正常に戻してもらって来て下さい。」
煎餅を取り上げられて、ナイトメアがあからさまに口を尖らせた。
「あ〜ぁ、パロマが口までも毒されてきた。最初の頃は純粋で愛らしかったのになぁ〜・・・」
「口を悪くする様な事をしでかす貴方がいけないんです!!」
そこでパロマは、どうして夢の初めにナイトメアを追いかけ回していたかをブワッと思い出した。目の前の人物のせいで理不尽な思いをしたあれやこれやを総まとめで。
「私で遊ぶのは、もう止めてくださいよぉ。何なんですか。私の気の休まる場所は、鉄格子の中だとでも言いたいんですかぁ。」
パロマは怒りを通り越して、いじけ虫に支配されていた。目は可哀そうな程ウルウルと潤んでいる。ナイトメアが、「それは心外だ!」とばかりに顎を突き出す。
「そればかりは私が仕組んだ事ではないぞ?君も知っている通り、私は君の意識と共にあったのだからな。その間に身体だけが移動させられていたのだから、どうしようもあるまい。あれは、ちょっとカッコ良く言ってみたかっただけだ。」
「そんなカッコ良さなんかいりません!!!!」
パロマは即否定した。
ナイトメアが「え〜」と子供の様に不貞腐れる。
「まあ、終わりよければすべて良し、ではないか。ハートの城の牢屋にいた時は、いよいよ君ともおさらばかと思ったものだが。」
それはパロマも思っていた事だ。擦り傷切り傷打撲はしたもののあの場から見事生還し、五体満足で今を迎えられているのが未だに信じられない。
「た、確かにそうですけれど。ああっそうだ!あの衣装!!あれだって何の意味があったんですか!!!刀もインチキで、お陰でっ」
そこで、フッとパロマはある事実に気が付いた。
「・・・お陰で、逃げ切る事が出来ました・・・。」
思い返すと、実はエースと対峙していた時が一番危なかった。彼の爽やかな笑顔の裏には、まごうことなき殺意がみなぎっていた。刀がもし本物だったのなら、ああはいかなかった。真剣勝負がすぐさま始まりエースの一撃で致命傷を負わされ、命を失っていただろう。
大きな盾もあれが無ければ、自分を狙った銃弾か小刀の餌食になっていた筈だ。片方が欠けていたら、恐らく今を迎えられてはいない。
「あの、いろいろとありがとうございました。私ったら無茶なお願いばかりで・・・。こんなに良くしてもらったのに、お礼も満足に言えないで・・・・」
急にナイトメアをバターにしようと追いかけ回していた自分が恥ずかしくなる。
ナイトメアは優しい視線で真っ赤に俯くパロマを見た。
「君にはどうしてか、武器が似つかわしくないと思ってな。―――それに、夢から何でも出してもらえると分かったのに、金品財宝一切を求めてこなかった君を、私はちょっぴり気に入っているのだ。」
「ナイトメアさん・・・。」
パロマの視線に敬意の念が混じっている。パロマは散々もて遊ばれていたのはすっかり許してしまったのか、終わりよければすべて良しとはナイトメアにこそ当てはまる言葉だ。


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bkm


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