06
「お前の脳は悩むとろくな事を思い付かないという事が、これではっきりと分かった。阿呆は阿呆らしく、これからは何も考えずただ只管黙々と働け。紙が森に飛んで行っても独断で追い掛けるな。足元を気にしろ。誰かに飴をやると言われても付いていくんじゃない。」
幼児に向けた基本的ルールみたいな忠告を、とっっても馬鹿にしながら言い渡す。
これではまるでパロマが右も左も分からないお馬鹿さんみたいではないか。しかし、実際あった事なので、一言も言い返せない。
「世話を掛けた他領土には、不本意ではあるが私が対処しておいてやるから、自分から何かしでかそうとするなよ。奴隷のお前が動くと何でも無い事が凶事に変わる。己の取った愚かな行動を胸に刻んで、二度と迷惑は掛けまいと己に誓っておけ。兎に角お前は・無心で・働け。」
長々と続くブラッドのお説教に、パロマは瞳を瞑ってじっと耐える。
いつも対エリオット用に使ってきた『目を閉じて心を無心にし、ガミガミ煩い説教を右から左に受け流す』戦法だ。
見た目的にはしおらしく話を聞いてそうに見えて、実は全然頭に入っていないという、怒っている相手に大変失礼な技だが、怒りっぱなし彼に辟易してこっそり編み出してしまった。
しかしエリオットには大分前にバレてしまっていて、こっぴどく叱られて使えなくなってしまったのだが、どうやらそれを知らないブラッドにはまだ有効らしい。
ここぞとばかりに思う存分発揮させてもらっていると、足元でカリカリと小さく引っ掻かれる感じがした。
「そうだな、無断で敷地から離れた歩数と比例して借金額を倍掛けに―――おい、聞いているのか!」
「久し振り〜!元気だった?」と、パロマはブラッドの説教もそっちのけで、久々に再会を果たしたネズミ達と熱い抱擁を交わしている。
3匹も相当懐かしかったのか、「キューキュー」と鳴きながらパロマにしがみ付いた。
「・・・ここに来た当初は、銃を見ただけで肩を震わせ目に涙を溜めて怖がっていたお前が、こうも変わるとは・・・」
ブラッドが初めてパロマを見た場所も、奇しくもこの牢の中だ。
酷く汚れて、背中を丸めて、それはそれは惨めったらしい余所者だった。
(あの時は怯えるこの女を甚振るだけ甚振って、飽きたら始末してしまおうと思っていたのに。)
生かしてやるからには、テロリストが何処までやれるのかと秘密裏に監視まで付けたのに、何一つとして仕掛けて来なかった。
今考えると、馬鹿な話だ。
暗殺行為、諜報工作、密偵との内通、ありとあらゆる可能性を考慮したのに、この女がやらかした事と言えば、穴に落ちて抜け出せなくなり、風呂に嵌って全身水浸し、階段を上れば転び、すぐにコロッと騙されて、双子に苛められては走って逃げて、叱られて怒鳴られて、それでも懸命に働いて・・・そして屋敷の者達と少なからず絆を作った。
余所者だからと言うより、パロマ自身の飾り気のない真っ直ぐな心根が、裏社会で疑うばかりの者の心を引き寄せたのだろう。組織に忠実なエリオットでさえ疑う事を忘れて、気付けば自然に身内として受け入れていた。
最後の最後まで疑念を捨て切れなかったのは己のみ。しかし、それさえも・・・・。
ブラッドは過去を振り返り、自分の振舞いに苦笑いをした。
(こんな小さな存在の為に一つ組織を壊滅に追いやり、わざわざハートの城くんだりまで助けに行くとは。)
思い返せばすべて自分らしからぬ行動だ。しかし、そんな変化もブラッドには心地よかった。
「ふっふっふ。」
急に檻から変な笑い声が聞こえて、ブラッドが物思いから覚めて目を向ける。
「私だって強くなるんです。初めてここに入れられた時とは、もう違うんですよ?」


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bkm


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