03
「これは・・・っ!」
パロマは目前の錆ついた鉄パイプにしがみついた。所々が鋭利に尖ってざらついていて、それでいて氷の様に冷たい。パロマの両の掌に双方が突き刺さった。
「これは、一体どういう事ですかああっ!!!」
ガシャンガシャンと揺すってみた所でどうにもならない。頑丈なパイプはパロマがどうこう出来る程ヤワな構造では無かった。
夢みたいな煌びやかな風景も、高級感漂うゲストルームも、湯気を立ち昇らせた豪華な食事も一切見当たらない。パイプとパイプの隙間から見える景色は、どんよりと重く、楽しくもなれない灰色一色だった。
ついさっきまでハートの城にいた筈が、泣き疲れていつの間にか眠ってしまったのか、目が覚めたらどうした事か、見慣れた場所に舞い戻っていた。
ハートの城でも似た場所にいたが、確実にそこではない。
薄暗くて、底冷えするおどろおどろしさはどちらも同じだが、そこじゃないと肌でも感じる。そう、ここはもっと以前に居た場所だ。
身に覚えがあり過ぎて、パロマの表情が更に歪む。
冷たいすきま風が忍び込み、パロマの側を冷酷に通り過ぎる。岩場を切り開いた天井からは濁った水滴がポタンポタンと落ちては、下の桶に溜まった泥水の仲間入りをしている。いつの間にか身に纏っていた仕事着は、黒と白のシマ模様のツナギに変わっていた。胸元には律儀にも『810』のナンバーが荒く縫い付けてある。そしてパロマは初めて目にするが、多分そうなのだろう、滅多にお目にかかれない拘束具が、驚く事に身体にくっついていた。そう、ジャラジャラと伸びた無機質な鎖が、片方はパロマの片足に嵌められた足かせに、そしてもう片方は大きな鉄球に繋がり、身体の自由を奪っている。パロマは辛抱ならずに、またガシャガシャと無意味に目の前のパイプを揺らす。
「何でまた牢屋なんですか!!教えてくださいっボス!っうぎゃ!!いっっったあ!な、何?何なのこれ!もおおおっっ!!!」
慣れない足の鎖がもう一方の足と絡まり、見事にドベッと地面にダイブした。強打した鼻を擦りながら体勢を起こすと、転んだせいで鎖がガッシリと両足にグルグルと巻き付いて、パロマは一人で重い鉄球相手に苦戦する。そして、そんなに遠くない距離から「ブッ」と吹き出す声が聞こえて、さらに苛立ちが募った。
「・・・・・面白いですか。」
「ああ。この上無く。お前のその予知能力と回避力の無さは、どうしようもないのだろうな。『こうなるだろうな』という所で、必ずと言って良い程そっくりそのまま引っ掛かる。救いようがない。」
「ボス!!!!ふざけていないで、これ取って下さい!!!!」
結局ブラッドは笑っているだけで何も手伝ってはくれないので、パロマは一人ジャラジャラと絡み付く鎖と格闘する羽目になった。


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bkm


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