38
ビバルディが退室してから程良い時間を開けて、薔薇の扉から廊下に出たブラッドは、舞踏会会場に舞い戻った。
和やかなワルツの旋律が、熱気を含んだ会場を包んでいる。
ハートの城で用意されるアルコール類は、どれも美酒で名高い名品。回転木馬の様にクルクルと同じ所を踊り回る男女は、誰もが陽気で顔が仄かに火照っていた。
ブラッドの姿に気が付いた配下の者達がこぞって彼の周りに集まり出すが、それを片手で制して会場内を動き出す。一人の部下だけが報告の為、背後に控えていた。
「場内は特に異変はありません。領土間のトラブルも表立っては起きてはいないかと。」
ブラッドは前を進みつつ報告を受ける。
「だた、城の兵士数人がボスの不在に気付き、こちらの動きを監視してはおりましたが。」
部下がチラッと視線を向けた先には、ハートの兵士が数人集まって、何やら伝達をしている。一人が敬礼の姿勢を取ってすぐさま場内から姿を消した。おおよその所、「帽子屋、舞踏会会場にて本人を確認」とでも伝達しているのだろう。
「ま、許容範囲ギリギリの時間だろうな。だからこうやって一度姿を見せにきてやったんだ。」
ブラッドが姿を現した事で、警備兵の物々しい警戒が解かれる。すると何事も無かったかの様に、帽子屋屋敷サイドの人間達も隠し持った武器から手を外した。
華やかな会場は、境界線の無い敵の基盤。敵同士が相まみえるそこは、酒に酔い痴れ豪遊三昧に見えて、そのじつ一寸先は闇なのだ。
報告をし終えた部下に下がるよう指示を出すと、彼は一礼をしてスッと人ごみに紛れていった。
「さて、あいつ等の姿は・・・」
ブラッドが会場内を見渡すと、大皿にデザート類をこれでもかという位山盛りによそっている双子を視界に捉えたが、エリオットの姿は確認する事が出来なかった。
しかしそんな事は気にも留めず、着いたばかりの謁見の間から再び踵を返して後にする。
一度姿を見せてしまえば、もうこの会場には用は無い。
長い廊下を進んだ先、ブラッドが目指した場所には、
エリオットが先にいた。
ドアの前で立ち止まったまま、そこから動かないエリオット。
かなり距離があるせいか、あるいは他に気を取られているのか、いつもは気配に敏感な彼が、ブラッドが姿を現したのに気付きもしない。
エリオットは、ドアノブに手を伸ばしてしかし握るのを躊躇ってといった行動を何度か繰り返した後、やっと心を決めたのか勢いを付けてバッとドアを開き、その勢いのまま部屋の中に入って行った。






prev next

208(348)

bkm


top

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -