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パロマは4人が部屋から出で行った後は、素直に部屋の片隅で縮こまっていた。
ブラッドの言う通り、本当にドアを何度かノックされたのだった。
心配そうな声色、甘い囁き、その度にドアを開けそうになったが言いつけ通り踏み止まると、直後に罵声が響き渡った。パロマをひどく罵った声は見知った同僚のものと類似していた気がしたが、精鋭な敵の部下達はそこも真似てきているのだろう。
中にはアリスやユリウスに似せた声で話しかけてくる輩もいた。あたかも心配そうな声色で、扉を開けてくれと言われてひどく心が揺れたが、今までの罠を考えると開ける気にはなれなかった。現にアリスの声の人物はパロマが扉を開けないと分かると、ヒステリックに叫び出し本性を現した。開けなくて正解だった。
今は誰もが諦めたのか、部屋は静寂に包まれている。
テーブルの上には、先程ディーとダムが置いて行った豪華な食事が所狭しと並べたてられていた。たらふく食べてくるなんて嫌味をいいつつ、本当は何も食べていないパロマを心配してか、こんな思いやりを示してくる心が捻くれた可愛らしい子供達だ。
空腹は、とうの昔に限界を通り越している。
体力も無いし食事も取って無くて、よくここまで動けたものだと、自分でも苦笑いを浮かべる。大皿に乗った熱々の料理達が早く食べろと誘惑的な匂いを辺りに充満させているが、
パロマは未だ、一口も口にはしていなかった。
テーブルからは大分距離のある中庭に面した窓辺で、パロマは両膝を両腕で抱え込み小さくなって座っていた。
床から天井まである大きな窓ははめ込み式で、外気を取り込む仕組みにはなってはいないが、大きなスクリーンの様なそれは、部屋の中から見ていると思えない絶景が目の前に広がっていた。少し前に夕暮れ色に染まっていた風景が、突如闇夜に変わった。夜を彩る幻想的な光の輝き。ライトアップされた城は魔法使いの呪文に掛かったかの様に、それはそれは神秘的に生まれ変わった。そのせいか今まであった出来事も、どこか夢の様に感じる。
パロマはコテンと窓に頭を付けた。そこからひんやりと冷たい温度がジワジワと伝わってくる。
夢の様でも、あれは現実だった。
あの恐ろしい惨事も、
アリスから告げられた言葉も―――
静まり返る部屋に、オーケストラの旋律と共に賑やかな声が微かに響く。
しかし、そんな心が躍りそうな華やいだ音も、今のパロマにはただの雑音でしかなかった。頭の中では、アリスの台詞が絶えずグルグルと回っていた。
あの場は何とか堪えたが、本当は叫びたかった。「自分は、もう不要なのか」と。「こんなに、こんなに頑張ったのに、すべて独りよがりだったのか」と―――
パロマが両腕の中に頭を埋める。
その通りだ。独りよがりだ。自分が一番分かっていた。
誰にも気に掛けてもらえないちっぽけな存在に優しくしてくれた大切な人、それに縋って生きて来たのは紛れもなく自分なのだから。アリスはちゃんと己の道を真っ直ぐに歩いている。
(分かってる、分かってるんだけど・・・でも)


ゴツッ・・ゴン!


「った!」
頭に拳が当たって、さらに反動で分厚い窓ガラスにも頭をぶつける。それで物思いから強引に現実に引き戻された。だんご虫みたく丸まったパロマの背後には、何時からいたのかエリオットが立っていた。




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bkm


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