36
帽子屋屋敷でも紅茶の茶葉の扱いは、ハートの城に引け目を取らない位、厳重に保管されている。その中でもレア物に関しては、貯蔵場所でさえ管理を任された数人しか知らされていないトップシークレット。ビバルディの不用意な一言が何を意味するのかは、火を見るより明らかだ。
「フフン、それはお互い様であろう?」
敵対する領土同士、これでもかと言う位スパイを送り合っている仲だ。手持ちの茶葉等、お互い自分の物以上に知り尽くしている。ビバルディが手にした小箱をもう手放してなるものかと、深く抱え込んだ。
「くれると言うなら、貰ってやらなくもないが、しかしそれで帳消しにしろとは、少し望みが大き過ぎぬか。矜持の高い部下共が、正面から挑まず小賢しい手で倒されたと、あの娘に対して熱り立っておるわ。」
「そこをどうにかするのが貴方の仕事。無駄に培ってきた傍若無人のイメージを、存分に生かせる時ではありませんか。本当は心優しい貴方には出来る筈です。年の功を理由に、大事な玩具を気まぐれに取り上げないで下さい、」
ブラッドが一呼吸置いて、
「姉上。」
ビバルディに対して、そう呼んだ。
それを聞いたビバルディは驚きに目を見開いた。誰もいない漆黒の闇の中とは言え、どこに影が潜んでいるのか分からない。
それでも、狡猾なこの男は、事も無げに二人だけの秘密を口にしたのだった。
ビバルディとブラッドは今や敵対する勢力の頂点という真逆に位置する二人だが、元は同じ腹の中から生まれた血を分けた実の姉弟。2大頂天の衝撃的事実は闇に葬られ、二人でさえも固く口を閉ざしていたのに。
「クックク」
ビバルディは口元を扇で隠して微笑した。
「おぬしにそこまで言わせるとは・・・・。あの女、何者なのであろうな。」
顔半分を隠して、瞳だけで表情を伝える。
「この、誰もが選択の余地なく招集が掛かる会期。逆に言えば、わらわ達の様に領土から重度の偏愛を受ける者がその縛りから解放され、他領土の奥の奥まで土足で踏み荒らせる絶好の機会。」
「・・・・」
ブラッドは何も言葉を発さない。それは否定なのか、肯定なのか。ビバルディの持つ扇が煽情的にユラユラと揺れる。
「おぬし、これが舞踏会の開催と重なりもせんかったら、どうするつもりだったのじゃ?不動のおぬしが世界の懲罰も意に返さず、遠い敵地で囚われの身となったわらわに、遠路遥々会いに来てくれたかのう。―――乳臭い小娘、だた一人の為に。」
ビバルディはフフンと笑って、片眉を吊り上げる。
『弱みを握った』と、まるで幼少時に戻ったみたく、楽しげに。







prev next

206(348)

bkm


top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -