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「世話じゃと?おぬしの目は紛い物か!戯言はいい、即刻あの娘を差し出すのじゃ!!」
「結論ばかり急ぐと、大きな損を招きかねませんよ。貴方はどこぞの剣士とは違って話が通じる御方。ここは穏便に済ませようではありませんか。」
人の悪い笑みを浮かべたブラッドに、ビバルディが眉を顰める。
「何が言いたい。あやつはわらわの秘蔵の茶葉を台無しにしおったのだぞ。嗜好が類似したおぬしなら、この煮えくりがえる思いが重々分かるであろうが!」
ビバルディは陶器に異物を混入させたパロマが、未だどうしても許せずにいた。舞踏会の挨拶でも、頭の隅にはその苛立ちが燻っていたのだろう。紅茶好きのブラッドがより良い返事をしない事に、ビバルディは酷く怒り出した。
「そう目くじらを立てる事でも無いのでは?貴方はあの貴重な茶葉のストックを、大きな葛籠で50も持っているではありませんか。その内の小さな一つがダメになったとしても、貴方が被る被害はいかばかりか。」
「おぬし、何故それを。」
ビバルディが真顔になってブラッドを睨みつける。
黄金よりも、数多の宝石よりも、何をもってしても代え難いビバルディの至宝。
それに関わる情報は国家の機密事項。漏洩する程、国の守りは甘くは無い。
しかし、彼女の問いには答えず、ブラッドは飄々と話を続ける。
「―――とは言う物の、貴方に無礼を働いたのも事実。そこで謝罪の意味を込めて、ちょっとした贈り物を用意してきました。」
ブラッドがすっとテーブルに置いたのは、小さな小箱。しかししっかり密封されたそれは、箱の上蓋にシーリングワックスで産地の印璽が押されていた。
ビバルディの瞳が途端にクワッと開かれる。
「そ、それは!!最早市場には並ばぬであろう幻の逸品!裏取引にも姿を現さず、わらわがどんなに手を尽くしても得る事の出来なかった、紅金茶葉ではないか!!」
茶葉の品質はそれこそピンからキリまで。一般家庭で飲まれるオーソドックスな品から、専門家でさえ口にした事がない世にも稀な一級品にまで及ぶ。ビバルディの目前に置かれた品は、ひと摘まみだけで1富豪の全財産に匹敵する一等級の茶葉だった。
「一度だけ嗜んだ事がある・・・あの豊かな紅色。とろみを帯びた水面はゆったりと揺らめき、日の光を纏ったかの如く、黄金色が入り混じる。そしてどの茶葉とも違う、蜜の様な惑わす香り・・・。」
自分の世界にトリップしてしまったビバルディは、まるで中毒者の様にフラフラとテーブルに置かれた小箱に近寄って行く。両の手を無意識に伸ばした所でハッと正気付き、ギッとブラッドを睨んだが、相手がニコヤカに手の平を見せて『どうぞご自由に』の合図を送ってきたので、魅惑に負けてその小箱を手に取った。
「おぬし・・・・何を考えておる。おぬしとてほんの僅かしか所有しておらぬ極上品・・・それを、こうも簡単に手放してしまっても良いのか。」
「どう言う事ですかね。貴方も我が帽子屋屋敷の貯蔵庫の現状を、不思議と良く御存じの様で。」







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bkm


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