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働く者達の喧騒から遠く離れた西の回廊の先は、華やいだ正面広間とは違い、薄暗く閑散としていた。
風もないのにギコギコと奇っ怪に揺れる、斜めに傾いた開き扉。
『審判の間』は未だ惨劇の跡を色濃く残していた。
この部屋のシンボルとも言える甲冑は、6体すべてが激しく損傷している。
ある1体は足と腕が脆く崩れ去り、数体は胴に惨たらしい空洞が、最も目を引く一体は頭部を丸っきり失っていた。立っているのが不思議な程、壊れ果てた惨めな姿を曝け出してる。
ナイトメアが『恐懼の間』と称したこの空間は、その威厳を微塵も残してはいなかった。
しかし辺りに漂っている刺す様な冷気は、その惨害のせいばかりではない。
地面に半分が埋もれた不気味な鉄仮面の視線の先、瓦礫の山と化した地に立つ、二人の人物。
お互いが小揺るぎもせず、眼差しばかりがいやに鋭い。


その場にいたのは、ユリウスとブラッドだった。


誰もいなくなった円形の空洞に、二人だけが残っていた。
今にも崩れそうな一体の甲冑から、ガラガラと鉄くずが転げ落ちる音がする。崩壊が進んでいるのは間違いが無い。そこここでギギギギ、キキキキと耳障りな音が聞こえるが、二人は警戒する何処ろか、その場から一歩も動かない。




「いくらだ。」




ユリウスが単刀直入に切り出す。
ブラッドが徐に口に咥えた煙草に火を付ける。瓦礫の山は燻った煙が立ち上る場所さえある。何に引火するか分からないのに、堂々とそれをやってのけた。紫煙を口から吐き出し、ゆっくりと答える。
「何の話をしている。」
ブラッドの細く開いた瞳が鋭利に光る。相手は飽く迄しらばっくれるつもりか、ユリウスが組んだ腕の間の工具をギリッと握り締めた。


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bkm


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