13
パロマはまた牢獄に戻され、何時間も過ぎた。もう今が何時で何日なのか、皆目見当もつかない。
牢屋の中に、たまにお情け程度の食事が運ばれる。空腹でフラフラした体を何とか起こして、彼女は食事にありつく。少し固すぎるパンに付着したカビを指先でこそげ落とし、僅かな塩味の付いた何の具も入っていない冷めたスープに浸して食べる。
そこに、パロマの足元から、チューチューと鳴き声がしてきた。
「あぁ、あなた達にもあげるね。はいチュー太、チュー坊、チュー介。」
パロマの名づけセンスは壊滅的だった。
そんな名前にされた事等全く知らない牢屋に住み着いたネズミ達は、彼女からもらったパンくずを懸命に頬張る。
(はぁ、可愛い。この子達がいてくれるから、こんな場所でも何とか生きていける。)
そして、パロマは何度も思い出してはいるが、またこの前あった出来事を反芻する。


(あの人、身代金を請求するって言っていたけれど、一体誰に請求するつもりなのかしら・・・)


パロマは私生児だ。
物心が付いた時には教会にいた。
パロマは両親の顔も容姿も、全く覚えていない。
教会の牧師様はとても良い人だったが、孤児院を営んではいなかった為、村人に説得させられパロマは里親に出された。
だから教会にいたのは、ほんの僅かな間だった。
パロマはそこそこの地位がある家柄に貰われた。なかなか子どもに恵まれず、悲しみに暮れる夫人の為に彼女を引き取ったのだが、パロマにとって不運にも引き取られた後すぐに夫人の懐妊が分かった。
孤児だったパロマに、弟が誕生した。
パロマはもちろん喜んだが、しかし夫婦の愛情はすべて長男に注がれ、まだ幼かった彼女には目もくれなくなっていった。
それはそれで、弟とは仲良くなろうとしたのだが、両親に見下された姉など、弟が構う筈もない。
子供は正直で残酷な生き物だ。
パロマは弟からイジメを受けるようになっていった。
二人が成長するにつれ、陰湿ないたずらは陰険度も増してきて、さらに居心地が悪くなっていた所、隣街にある学校の声楽科への奨学金制度を知った。
パロマは実際歌うのは大好きで、こっそりピアノの練習もしていた。独学ではあるが古い教科書を譲ってもらい、それからと言うもの懸命に勉強をした。
一生分の幸運を使いきったのか、受験にパスしたのはパロマ自身も信じられなかった。
弟は大反対をしたが、親はそこが全寮制なのを知ると、これで家から追い出せると喜んで書類にサインをしてくれた。


(だから、家に脅迫状なんて送ったところで、どうにもならないと思うんだけどな・・・。)


あそこでの暮らしは最悪だったので、今のこの可愛い3匹に囲まれているほうがずっと幸せだ、とパロマは思う事にしたのだった。


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bkm


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