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「あ・・・っ」
白のポーンはとうとう敵に見付かってしまったのか、大多数の黒い駒達に追いかけ回されている。右に曲がると前方からもポーンが現れ、急いで戻って左に曲がる。しかし、左はもっと悪い。その先には軍隊の様な歩兵部隊が待ち構えているのだから。そうとは知らずに白のポーンは、後ろを絶えず気にして、前へと急ぐ。
助ける事も出来ずに、パロマが「ひっ」と息を飲んだ。
パロマの予想と違わず、白のポーンが前方に埋め尽くされた軍隊に気が付いたのは、もう逃げ場を失った後だった。白のポーンが不注意にも警戒を怠ったせいで、先に標的を視界に入れた相手側が、着実に逃げ場を塞いでいる。
最初はゆっくり動いていた歩兵部隊が、全速力で白のポーン向かって走り出した。
前からも後ろからも敵に囲まれ、白のポーンが今にも押しつぶされそうっという所で・・・
ナイトメアがパチンと指を鳴らした。
するとすべての駒が意思を無くし、コロンコロンとテーブルに落ちて転がった。
「行く末まで、これで判断するのはやめておこう。」
動かなくなったチェスの駒達。パロマがやっと視線をナイトメアに戻せた。
「この先は君が、自分で、切り開いていかなくてはならないのだから。」
ナイトメアの神秘的な瞳が、静かに彼女を見ていた。
パロマも自分のポーンに気を取られ過ぎていた事にやっと気が付いた。
彼のおかげで我に返り、気持ちを改めグッと拳に力を込める。
「そそそそその通りですよね。私がししししっかりしなくては!」
力を込めた筈の拳は、別の意味で震えていた。
夢から覚めるのが心底怖い。パロマは震える右手を左手でギュッと覆った。
ナイトメアが心配そうに彼女を伺った。
「パロマ、大丈夫か?これからは運だけでは切り抜けられないぞ。私が側にいてやれれば力になってやれるのに・・・。」
本心とは丸っきり思えないが、一応気遣いをしてくれるナイトメアだった。
「大丈夫です!そんな優しい貴方に、他にもお願いがあるんです。」
ん?と優しい微笑みを浮かべたナイトメアだったが、その後のお願いで度肝を抜く事になる。
「牢屋の側にいるワンコが鍵を持っていますので、近くまで呼び寄せて寝かせておいて下さい。あ!それと、兵隊の皆さまもぐっすりお休みにさせて頂けたら、さらに助かります。」
パロマの檻を施錠した後、兵士が犬に鍵を咥えさせたのは確認済みだった。そして、夢から現実を操作出来るナイトメアだったら、逆に現実から夢に誘い込む事も可能なのではと踏んだ計画だった。夢の中で彼に会えたからこそ閃いた苦肉の策。
「・・・・・ほっほぅ〜。なるほど・・・。牢屋を全く気にしていないと思ったら、すべて私任せだったのか。兵士全員とは・・・パロマ、君は人使いだけは急激に荒くなってきたな。」
そう言ってナイトメアは堪え切れずに笑いだした。



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