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二人はギョッとしてパロマを凝視した。
その顔を見てパロマも同じくギョッとした。彼女はまたもや答えを間違ってしまったらしい。
「ジャック・クロフォードの直属の部下の様だな。確かあいつらの武器はショートバズーカだったか。」
「どうりで、あの建物があそこまで崩壊した訳だぜ。中にいた奴らは虫の息だったのに、こいつはピンピンしていやがる。」
二人はヒソヒソと話しているので、パロマにはちっとも聞こえない。
聞こえたところで、きっと何を言っているのか皆目理解できないパロマではあったが。
「あの・・・私・・私は、帰してもらえるのでしょうか・・・?」
パロマは涙目になりながら、遠慮がちに尋ねてみた。
するとすぐにアリスの家庭教師が笑顔で答えを返してくれた。


「愚鈍を装っているのか知らないが、君が分かる様に教えてあげよう。あの界隈は我が帽子屋屋敷の極秘の支部があり、一つの拠点であの時間帯に、大事な大事な相手との協約が執り行われる目論見だったのだ。もちろん私たちも後から参加する予定だったのだよ。それが、突然あの建物は崩壊した。取引は白紙になり、さらに円満に事は終わるはずだった相手方は、私から交渉を持ちかけておきながら騙し打ちをした、と激昂のごとく怒りだし、いま彼らは中央に勢力を集めている。今にもこちらに攻め入る手はずになっている、と目下部下からの報告だ。」


ブラッドと呼ばれた男は、何でもない様に内部の機密事項らしき情報を、サラサラと話し出した。パロマは、彼の話途中から冷や汗が止めどなく溢れ出した。
「私は素直に取引に応じるつもりでいたのに、どこの誰だが、この帽子屋に楯突こうとする無謀なバカが、恐れ気もなく邪魔をしてくれたらしい。」
穴から落ちた時、一つの屋敷にぶつかって、そのせいで大勢の怪我人が出てしまった。彼らも自分に向って、『どこの組の者か』と怒鳴っていた。−−−あれは、学校を聞いていた訳ではなかったのか・・・。穴に落ちたのだって偶然で、その屋敷に当たったのだって偶然だ。−−−絶対に偶然だ。
「そして、不可解な事に当事者は皆動けない程の重傷なのに、怪我もなくピンピンとしている少女が1人・・・それがどういうことなのか。―――分からないか?」
此処へ来て、パロマは自分が恐ろしく勘違いしている事に気が付いた。


―――彼はアリスの家庭教師ではない。


(他人の空似?!きっと似ているだけの別人なんだ。そして、私はこの事件の首謀者っていう筋書きが出来上がっちゃっている!!)
「ち、違います!私は地面に開いた大きい穴に落ちちゃって、何故か空から落下したんです!あの建物に!!取引を台無しにするとか、そんな事はまったく―――」
パロマは首をぶんぶん振って早口で否定するが、すべてを言い終わる前に凄まじい轟音鳴り響く。
「嘘を吐くな!使ったショートバズーカは何処に隠した?!他にもてめぇの仲間がいるんだろ、何処に潜伏してんのか言え!!」
エリオットの銃口から煙が立ち込める。パロマの前にあったテーブルは綺麗に準備されていたお茶のセットと共に無惨に崩壊した。彼女の目の前で信じられない事が起きたのだ。


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bkm


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