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「マフィアに追われるって、あの子何をしでかしたの・・・・。歌を歌えるのと鈍くさいのしか能が無いのよ?あの子は。」
歌は分からないが、鈍くさい性格はユリウスでも知っている。階段を思いっきり走って下って転げ落ちるなんて芸当、恐怖心が有っても無くても中々出来るものではない。
ちょっと褒めるとすぐヘラヘラっと笑うパロマを思い出す。確かにあれで何をしでかせるのだろうか。
う〜んと唸ったアリスは突然何かに気付いてオロオロし出した。
「どうしよう!あの子がペーターやボリスに会ったら一大事だわ!!」
「ボリス=エレイとはすでに出会っている。森で銃を突き付けられて、今にも殺されそうになっていたぞ。」
「えええええ?!?!何それ!!」
アリスは急に立ち上がった。反動でテーブルに乗ったカップがグラグラと揺れる。
「そして、大分前にお前を探しにハートの城へ向かって行った。ペーター=ホワイトとはち合わせるのも、もはや時間の問題だろう。」
「あの子何やっているのよ―――!!!!!」
冷静なユリウスと正反対にアリスは見るからに平常心を失っていた。
(こんな事ならパロマがまだこの塔にいた時に、強引にでも打ち明けさせていたら・・・ハートの城に向かった背中をこの腕で抱き留めてしまえば良かったんだっ)
それは何度も何度もユリウスの中で蠢いた後悔だった。
束の間だったが、あんなに安らいだ時間は初めてだった。いつも1人が楽だったのに、仕事をしていても、食事をしていても常に一緒にいたが全く苦にならなかったし、むしろ気が休まった位だ。黙々と細かい作業に熱中する姿はあまりに可笑しくて、思わず見入ってこっちが仕事にならなかった。料理を褒めた時の嬉しそうな顔、過去の話をしている時のどこか諦めた顔、いろんな表情を見る度に急速に引きこまれていった。
夢から目覚めて目の前にある可愛い瞳を見つけたら、まだ自分の手元にいる安堵と抗えない誘惑に自分がどうにかなりそうだった。それを思うと邪魔をしてきたエースをぶちのめしてやりたくなる。
それなのに何故、
自分はあの笑顔をいとも簡単に
手放してしまったのだろう。


ユリウスは波打つ感情を静めようと窓辺に近付く。すると、仕事部屋の窓から覗く森の様子が少し異様な事に気が付いた。
「―――?何か様子がおかしい。一度展望台まで行って辺りを確認してくる。」
「ちょ、ちょっと待って、一緒に行くから!」


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bkm


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