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「え・・・・・っ」
アリスは思いもよらない名前が出てきて、返答に詰まった。
「この塔を訪れていた人物の名だ。お前はその名を知っているだろう。」
「パロマ?それって、パロマ・フォークナーの事??・・・ええ?だ、だって、彼女はこの世界の住人じゃないわよ・・・?何で貴方が知っているの・・・よ・・・。」
「ファーストネームしか聞かされていなかったからそれ以外知らないが、余所者だったのは確かだ。」
ユリウスの話を聞いて、アリスの額から汗がひと滴滑り落ちる。
「それは私の知っているパロマで合っているみたいね・・・。あの子、ファミリーネームを名乗るのが嫌いなのよ。」
アリスは初めてパロマと出会った時の事を思い出す。その時も、彼女は何とかファミリーネームを名乗らずにいられないかと、後から思えば彼女は随分と間誤付いていた。出会った頃は彼女の噂が光の部分も影の部分も名実共に世間に知れ渡っていた時分だ。しかしあの時ならまだしも、彼女が今でもその名に追い目を感じていたとは。いや、そんな事より・・・・
(パロマが・・・・パロマが????)
アリスは肘に籠を掛けていたのも忘れて、両手で頭を掴んだ。
「ええ?!・・・ウソでしょ?!パロマが来ているって言うの?この世界に?・・・冗談よねっ?!」
脇から小粒のパンがコロコロっと飛び出して、螺旋階段を転げ落ちて行く。しかし助けに行く余裕は誰にも無い。
コロコロコロコロ、緊迫した雰囲気を余所にパンが呑気に転がって行く。
「嘘を言って何になる。」
ユリウスが冷静に言い返した。
「だ、だって・・・どうやって?自分からこの世界に来られる訳がないし、ペーターはそんな事言ってなかったわよ。」
「兎に角細かい事は部屋に着いてからだ。」
ユリウスの仕事部屋に入ると、そこは見違える程ピッカピカに掃除されていた。いつもは何か鋭い物を踏まないかと恐る恐る歩いたものだが、今回は隅の隅まで綺麗に磨かれて逆に滑って転ばないか用心しないといけない位だ。
何も乗っていないソファに、いつもでは絶対に出来なかった事を試みる。アリスは贅沢にもソファの中央にボスっと座ってみた。空気が含まれたソファはアリスを無駄なくフンワリと包み込む。このソファはこんなにも座り心地が良かったのか。アリスは思いもしなかったリラックス具合に、思わずホゥッとため息と吐いた。


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bkm


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