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急かすユリウスの事等何処吹く風と、「ねぇねぇ、最近のパン屋の行列って半端ないのよ?知ってる?この前もね〜」と呑気に世間話を繰り広げる。
そう、この少女こそがアリスだった。
パロマよりも先にこの世界に迷い込んだ彼女は、今はハートの城に滞在している。
女王と仲良く女子の買い物を楽しんでから、この塔を訪れた所だった。ビバルディは買い物がやたらと多い為、掛る時間も荷物持ちの護衛の数もたっぷりと必要だ。そして彼女はお気に入りのアリスの為にも、大枚をばらまいて豪華なプレゼントをしこたま買い込んでくれる。そして手持ちにすると手が荒れるからと、大きな家具から小さなパヒュームの小瓶まですべて従者に持たせて城の豪華な部屋まで運ばせる程、女王に猫っ可愛がりされていた。
光輝く瞳、溌剌とした表情は同じ余所者でもこちらはこの世界を大いに楽しんでいる風だった。
塔の螺旋階段を上る途中で、ユリウスがチラッと後ろを振り返る。
「アリス、お前最近はどうしていた。」
急な質問に、アリスは眉を顰める。
「最近?ペーターが煩いからお城の中にいる事の方が多いけど。けど、こうやって抜け出せるし、不自由はしてないわよ?」
アリスは滑らかな手摺りに、手をスルスルと添わせる。この前来た時は埃でザラッとして、如何にも一般人は触ってはいけない神聖なオーラを発していた。塔の古めかしい趣を埃で表現していたのかと思っていたが、綺麗になればもっとその趣が引き立つ。ただ単に汚れていただけだったのか、とアリスは悟った。
「他には?帽子屋領土を訪れたりはしていないのか。」
「いやよ、あんな伏魔殿。この世界に来たばっかりの頃に数回行っただけよ。」
アリスは心底嫌そうに、しかめっ面でそう答える。ユリウスがそれを聞いて何か考える仕草をした。
「そうか・・・。それならば鉢合わさなかったのも仕方がないのか。」
「ちょっと、さっきから何なの?」
足早な彼と少し距離が空いてしまって、アリスが急いで階段を上がる。
すると、ピタッと足の動きを止めたユリウスが、徐に後ろを振り返った。


「パロマという人物を知っているか。」


ユリウスは見上げてくるアリスと視線を合わせる。口から出て来た言葉は問い掛けではなく、断定的なものだった。


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bkm


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