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空に浮かぶのが白い雲ではなく、煙草の煙が集まったかの様などんよりとした空気に覆われた不愉快な一帯がある。
雨が降った訳でもないのに至る所がぬかるんで、硝煙と血と汚泥の入り混じった匂いがする。薄暗い街だ。繁盛もしていない店の屋根にはどぎついネオンがチカチカと光っていた。痩せこけた猫が数匹、ツンとする異臭を放つゴミ袋をゴソゴソと漁っている。

喧嘩でもしたのか泥酔状態の男が、街角で血を流して倒れていた。近くを通った男が、助けるでもなく倒れた男の胸元を探って、そこに何も無いと分かると歪んだ表情で唾を吐いた。すでに誰かが財布を擦った後だったのだろう。堂々とその行為をしても、道行く人は誰も咎めない。
そこは廃れ切った場末の街。
常識を持った人間ならば、遠回りをしてでもそこを回避する道を探すだろう。
帽子屋屋敷領土内の汚点とも言える・・・・ゴミ溜めの無法地帯だった。
舗装が行き届いていない砂利道に、いつもは聞こえぬ大勢の足音が響き出す。
道で激しく怒鳴り合っていた男達が、急に静かになった。するとその奥で、酒をラッパ飲みしていた男がそれを呑みこむのを忘れて、喉元からドボドボと酒を浴びている。
足音が徐々に徐々に大きくなる。
男に垂れかかっていた女が「ひぃっ!」と息を飲んで、道すれすれまで後ずさる。男の方も女に構わず転がる様に逆方向へ逃げて行った。
次々と人がいなくなり、大きな一本道が開かれる。
その道一杯に広がる武装集団。
その場にそぐわぬ高貴な制服に身を包んだ彼等は、誰もが目を見張る様な恐ろしい武器を手にしていた。
先頭を行く二人は、真逆の表情をしている。
一人は何処か楽しげで、一人はその眼差しだけで射殺す事が出来そうな程鋭い表情をしていた。
大きく広がった道を我が物顔で闊歩する。
そして、敷地の広い古びた屋敷の前で全員が立ち止まった。
先頭の男が、深く被った帽子をクイッと上げる。
「お楽しみの時間の始まりだな。」
そう、ブラッドの目の前に建つ屋敷は、『ジャック・クロフォード』のアジト。




大勘違いの帽子屋御一行は
まさに真実の一歩手前、言うなれば誤解の歳高峰に到達したのだった。





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bkm


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