13
パロマは緊張のあまり息も止めた。
走り去ってこの場から逃げ出したい。しかし、無情にもゆっくりと動く行商。
兵士の真横にパロマが到達した所でピタッと積み荷車が止まった。
パロマの心臓が異常に高鳴る。止めた息も限界に達していた。
目をしかめた兵士が彼女の方向へ手を伸ばす。



「おい、お前。その髪に挿した薔薇に模した髪飾り、女王陛下御自らが愛好する深紅の薔薇を平俗のお前が身に付けるとは、偽物とは言え不敬罪に値するぞ。」
兵士はそう告げると、パロマの間近にいた少女の髪から髪飾りをむしり取る。
「あっ、た、大変申し訳、ございませんでした!」
少女は兵士に向かってひっきりなしに頭を下げて謝罪していた。恐らく城内に入れると意気込んでお洒落してきたのだろう。頑張ってセットしてきたのであろう髪型は、兵士に引っ張られたが為にグチャグチャに乱れて、彼女の努力はむなしく終わってしまった。そばかすだらけの頬を真っ赤に染めて、泣くのを必死に堪えている。
しかし、そうとは同情していられない立場なのがパロマだった。
(た・・・・・・・助かったぁ〜・・・・・)


――ー私じゃなかった。


身体中からドッと汗が噴出した。
マントの中は、蒸気で蒸し風呂の様な熱気に包まれている。
何かに縋りたい位だがそれでは姿が見えてしまうので、フラフラの千鳥足で肩を震わす少女の後ろを必死に付いて行った。―――泣きたいのはこっちの方だ。
橋の中央に差し掛かると、またもや見張りの兵士が二人体制で通行人を見張っている。
姿を消していても、緊張は消せない。
パロマは兵士の存在を空気と無理やりにも思って、前方だけ見据えた。
しかし、怖い物程指の隙間から覗いてみたくなってしまう。
パロマは堪え切れずに、チラッと横に視線を流してしまった。すると、
何故か、兵士と・・・バッチリ視線があった。
向こうからしたら空気を見ている筈なのに、視線が合うのは絶対におかしい。
パロマの動揺をよそに、兵士の顔に緊張が走る。咄嗟に視線を外したものの、パロマの鼓動がまたもや急激に早まった。
(バレた・・・?まさか分かっちゃったの!?)
兵士の視線はゆっくりと動くパロマの方角を正確に捉えている。兵士が一歩踏み出そうとすると、
「すみません兵隊さん。うちの若い子が先ほどあんたの同僚に酷く叱られてしまってね、そんな怖い顔で睨まないでくれないかな。もう十分懲りてんだから。」
この行商の親方らしき人物が、パロマの真ん前を行く少女を庇う様に兵士の前へ出る。
少女は我慢できなくなったのか、両手に顔を埋めて泣き崩れていた。どうやら兵士の視線はパロマではなく、こんな所で嗚咽する少女に向けられていたものだったらしい。
今度はガクッと力が抜けた。
紛らわしいにも程がある。


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bkm


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