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「お世話になりました、ユリウスさん。」
夜の時間帯から夕方の時間帯へと変化し、いよいよパロマの出発の時となった。
パロマは唯一の荷物であるスペアポケットをポケットに入れ、ユリウスから貰った地図を片手に見送りに立ったユリウスへ振り返る。
「しっかりとお掃除しておきましたので、もう汚しちゃダメですよ?」
「余計なお世話だ。―――早く行け。」
彼は組んだ腕から手だけ動かして、しっしとやる。
パロマは一度塔を見上げた。そうしてしっかりと目に焼き付ける。足を包帯でグルグル巻きにされたり、初めて料理をして褒められたり、いろいろあったがどれも心に残る思い出だ。夕焼け色に染まった巨塔、しかめっ面の彼も、優しい微笑みの彼も、このオレンジ色と一緒に忘れられないだろう。
「ハートの城には精鋭な兵士がごまんといる。正面から入るのなら良いが、そうでないなら・・・城ではもうすぐ『舞踏会』が催される。今はその準備の為の業者が大勢出入りをしている頃だから、裏門の警備なら比較的緩いだろう。」
だから、行商に紛れて忍びこめばいい、とまでははっきり口にはしない。エースに対し口止めをした辺りで、聡明な彼はパロマが正規な訪問ではないと気付いていたのだろう。それでも事情を聞き出そうとはせず、最善の策を考えてくれる。
最後の最後まで優しい彼だった。
「私・・・ちゃんとお返しできました?」
急に不安になってユリウスを見上げる。すると、いつもの優しい微笑みが返ってきた。
「そんな事は気にするな。お前は十分やってくれたよ。」
そうしてパロマの頭をポンポンと叩いた。
涙が溢れそうになるのを何とか堪えて、ハートの城に続く街道へ向きを変える。
「パロマ。お前、もしハートの城での目的を成し遂げる事が出来たら―――」



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bkm


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