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そう言うと目前のドアを荒々しく蹴りあげた。バーンと凄まじい音と共にドアが蹴破られ、蝶つがいごと部屋の中に吹っ飛んだ。
そこは小さな小部屋だった。
人の住む気配は一切しない。カーテンもきっちり閉め切ってあり、役割を失った机と椅子が寂しげに置かれている。
椅子の上が定位置だったクマの人形達は姿を消していた。壁に立て掛けてある黒板にはリクエストの下に沢山の楽曲名が書かれ、前に書いてあった双子に関する事項は擦って消されていた。そしてどことなく漂うこの部屋に滞在していた女の香りが、ブラッドの苛つきをさらに増幅させた。
ブラッドは部屋の中へ入り、ベッド中央に布切れが置いてあるのに気付いた。落ち着いた色合いの4枚の布地はアルファベットの精緻な刺繍が施されている。一枚目の刺繍は『B』だった。
「ブラッド。俺に少しの休みをくれねぇか。」
苦々しい表情をしたブラッドは床に捨てた生地を踏みにじって、エリオットに振り返る。彼は今にも発砲しそうに、銃を持った手を震わせている。
「俺はこの屋敷を裏切ったあいつがどうしても許せねぇ。仕事はさせてねぇが、気を許した俺の部下だった。最後に見たんだ、あいつの顔を。・・・・この落とし前っ!クソジャックの所に乗り込んで、この手で確実に息の根を止めてやる!!」
エリオットの目が復讐の炎で真っ赤に染まった。こんなに怒りを露わにしたのは友人絡みの牢獄事件以来だろうか。しかし、それよりも凄んだ微笑みをブラッドが返した。
「何を言っているんだ、エリオット。そんな無上の快楽を独り占めするつもりか。楽しみは皆で分け合わなければ。」
立て掛けてあった黒板を無惨に踏みつける。ミシミシと音がして二つに割れ破片が飛び散った。
「この私を、『帽子屋』をここまでコケにしてくれたのだ、こんな愉快な話があるか。簡単には死なせない。頭一つになっても生命は奪わないでいてやろう。―――部下を全員正面玄関に集結させろ。通常携帯の銃の他に各々武器を装備、爆撃班及び追撃班を構成しておけ。2時間帯後にジャック・クロフォードへ総攻撃だ。」
そう言ってにやりと笑ったブラッドは、手の持った球体の栓を抜いた。ポイっと投げて、部屋から背を向ける。
「あの女がいたという胸くそ悪い証拠は、この屋敷に塵程も残すな。―――さぁ、野鳥狩りとしけこむか。」
廊下を闊歩する二人の後ろでは、先程いたばかりの部屋から大爆発が起きて、赤々と炎を立ち登らせていた。



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