34
時を同じくして―――
時計塔でパロマが思いを馳せていたかの地、『帽子屋屋敷』では、
正面の威圧感漂う門には見張りの姿がなく、閑散としていた。
門を囲う外壁には長身のカラスが数羽止まり、その赤い眼をギラギラと光らせている。屋敷より外部は至る所に飛び散った赤黒いシミが見るも無残に広がっていて、辺り一面に生臭い異臭を放っていた。
屋敷全体もどこかどす黒いオーラに包まれていて、今にも引き攣った悲鳴が森中に木霊しそうなおどろおどろしさだった。その佇まいは間違って訪れた者にこの世の物と思えない恐怖を植え付ける。
それはまるでユリウスが例えた『魑魅魍魎が跋扈する悪の巣窟』そのものだった。


屋敷内の一階、薄暗い長い廊下に靴音を響かせながら歩くブラッドがいた。その表情は一切読み取れない。
廊下の先から大股でエリオットが彼に近付いてくる。
「ブラッド!問題が発生した。」
「それは死活問題か。そうでなかったら、私がお前を死の淵まで追いやるぞ。」
「・・・。随分ご機嫌斜めじゃねーか、ブラッド。」
「私はしごく上機嫌だ。不機嫌なのはお前だろ、エリオット。右手が銃から離れていないぞ。」
睨みあった二人の背後から、どす黒い瘴気が立ち登る。運悪くそこを通りかかった部下達が瘴気に当てられバッタバッタと倒れていった。
ブラッドはフンと鼻を鳴らして、エリオットの横を通り抜ける。鋭く睨みならがも、エリオットは彼の後を付いていく。
「・・・パロマの失踪で部下共が不安定になってきている。援護派と敵対派、くだらねぇ派閥なんか作りやがって、内部で殺気立ってやがる。」
ブラッドは聞いているのかいないのか、先方を見据えて廊下を突っ切る。
「一番やばいのは双子共だ。最近なりを潜めていた悪癖が戻っていやがる。敵味方関係無しに出会いがしらで切りまくっているぜ。血が乾かねぇ前に次々仕留めていやがるから、野獣共がその匂いに釣られて、時計に返る前に死体に食い付いていやがる。門の外は腐敗臭漂う血の海だ。」


「ははっ―――小娘1人逃げ出しただけで、この組織は半壊か!そんな腑抜けだらけの軟弱組織、私自ら闇に葬ってやる!!」


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bkm


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