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エリオットは裏表がないから分かりやすかったが、少しでも怪しい態度を取ればすぐに殺されていただろう。
そんな人間味の無い冷酷な所が彼にはある。いつでもパロマの行動を監視していた。


ブラッドは・・・


(ボスは私の事なんか、何ひとつ信用なんてしていなかった・・・。)


一見、誰よりも優しそうに笑顔で接してくれていたが、そう、誰よりも笑ってはいなかった。絶えず疑っていたのだろう、孤高の彼はひとり、ずっとパロマを『敵』として見なしていたのだ。
以前ナイトメアにブラッドの話をした時、全然分かっていないと失笑された事がある。それが今更ながら分かった気がする。
この塔に来てから冷静に考えた。どうして生かされていたのかを―――。
(―――私は、囮として泳がされていたんだ。)
そう考えると彼の態度がすべて腑に落ちる。きっとパロマがぼろを出すのを虎視眈々と待っていたのだ。
そんな彼でも、双子の落とし穴に引っ掛かってしまった辺りから態度が微量ながらも軟化してきた。あの高熱で倒れていた時に絶えず続いた姿なきお見舞い。
―――『足長おじさん』の正体、あれは、ブラッドだ。
最初はエリオットだと思ったが、考えてみれば屋敷に来て間もない頃、空腹のパロマを見かねて彼が手渡したのはキャロットシフォンケーキだ。
ニンジン料理に目の無い彼は手に取る物もオレンジ色の物ばかり。パロマの見舞いに彼女の好物を差し出す事等しないだろう。お茶会の度に物欲しそうに食べ物を見てしまっていたパロマに気付く人なんてあの中では1人しかいない。


(そんな見えない優しさを私は酷く踏みにじった。)


屋敷から逃げ出したあの時、庭から見上げた先二階のベランダに立った彼は、
一瞬苦しそうに眉をしかめてパロマを見ていた。
―――あれは、傷付いた顔だった・・・。

その表情は本当に瞬き程の短い間だった。すぐ元の冷血な顔に戻ったが、でもその一瞬の表情が目に焼き付いて離れない。

落とし穴から助けてもらい、屋敷に帰る道中、ふざける双子達と呆れたエリオットと、前を行くブラッド。彼の背中は何かホッとしたように少し力が緩んでいた。どこか足りない者達が寄り集まって、自分が今まで求めても求めても手にできなかった『家族』の温かさが、あそこにはあった。


暗い夜空に突風が吹き荒れパロマを襲い、思わず目を瞑る。
瞑るとポタンと涙がひとつ零れ落ちた。
ひとつ落ちたら、またひとつ、またひとつ、
無くした大切な物を惜しむように大粒の涙が溢れだした。

「ぅえっ・・・・ひっく・・・ふぇぇぇ〜ん。」

塔の見晴らし台で1人泣き崩れる彼女を夜空に輝く月だけが優しく見守っていた。








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