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少し強い風が吹いて、草原の草花がゆらりと揺れる。
可愛らしい小花には見向きもせず、彼女は足元を見つめて切なそうに顔を歪めた。
「・・・そうか。」
「もう足は大丈夫そうです。それに、これ以上ご迷惑になる訳にはいきません。」
今度は彼の目をしっかりと見つめてパロマは言葉を選ぶ。
彼は瞳を細めるだけで、変わらず無表情だった。


「次の夜の時間帯後に、塔を出ますね。」
「・・・。」
ユリウスはそれには何も答えず、パロマの頭をポンポンと叩く。
「―――お前の名前は、神父が名づけてくれたものか?」
意表を突かれた問いかけに驚いたパロマだが、
「はい。『鳩』だなんて、小さい頃はよく馬鹿にされました。」
飛んでみろ〜とか、鳴いてみろ〜とかからかわれたんですよ、と苦笑しながら答える。
「立派な名前じゃないか。」
表情を優しげなものに変えて、ユリウスが彼女を見下ろす。
そんな彼を見たらパロマは作り笑いも出来なくなってしまった。胸が詰まって、他の何かが溢れてしまいそうになる。
「―――それにしても、『平和の象徴』が『悪の巣窟』に舞い降りるとは・・・。皮肉な物だな。」


蒼く透きわたる青空にサワサワと森の木々が揺れる。


ユリウスは腕を組んで、エースが結局向かう事が出来なかった前方、ここからは目にする事の出来ない『帽子屋屋敷』へ視線を向けた。






―――可愛い小鳥はこの屋敷にはもう慣れたか



あの時は長めの黒髪が彼の表情を隠していた。





―――飛べない小鳥がこんなところで休息中か



闇夜の中、月明りで妖しく輝いた瞳。






(わたしは・・・)






パロマは寒くもないのに両腕で自分を掻き抱いた。
胸がズキンと痛んだのだ。



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bkm


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