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―――『ハートの城の騎士』


パロマは生唾を飲み込んだ。
騎士隊隊長と言ったら、これから乗り込もうとする場所の重要人物ではないか。道理で大層な剣を携えている訳だ。
ユリウスにはハートの城に向かっている理由を詳しく話してはいない。
お城の正面から堂々と入って王様に面会を求めアリスに会いに行く予定だったが、ユリウスにお城の現状を聞いてからは、警備の目を盗んで潜入する他ないと思っていた。
その目を盗む対象がすぐ目の前にいるだなんて・・・。
(迂闊に私の話題が上がるのは、どうにかしてでも避けないと。)
「ユリウスさんとは赤の他人の居候、パロマです。宜しくお願いします。」
エースと視線が合わない様に深々と頭を下げた。ニッコリ笑ったエースはそんなパロマの態度に違和感を感じた風ではないが、ユリウスは彼女の態度を察して、すぐに話の矛先を変える。
「ところでエース、仕事を頼んだ覚えはないが、今回は何の用だ?」
「ああっ!忘れる所だった!!これこれ、いつもの仕入分。ちょっと早めだけど他にも所要があって、ね。」
そう言って、テーブルの上に先程担いでいた大きな袋の中身をドサッと広げた。中には肉野菜、香辛料、ワインからチーズまで山の様な食材が入っていた。ようやくこの塔の食事情が分かったパロマだった。
「おい、早めに出たと言う割に腐った物が多い。どうせまた何処かで迷っていたんだろう。」
「えぇ〜?城下町のいつもの店で買い付けて、その足でここまで来たんだぜ。腐っている訳ないだろ。」
エースはそう言って机に広げられた野菜の一つを手に取った。瞬間、その野菜はヘナヘナっとエースの手の上で異様な物体へと変貌を遂げた。
「あ・・・ホントだ〜。」
そう言うと、惚けた顔で頭を掻いた。向かいに座るユリウスも、半眼で溜息を付いている。日常茶飯事なのだろうか、二人の態度は何故か板についていた。
「よしっと。これでお前の所のお使いも終わったし、次の用事に向かおうかな。」
エースはよっこらせっと立ち上がった。
スコーンには手を付けてはいないし、まだカップには琥珀色の飲み物がたっぷりと残っている。食材のチェックをしていたユリウスが、不思議そうに彼に尋ねた。恐らく、いつもはこんなに早く帰ろうとはしないのだろう。
「随分急いでいるのだな。女王から至急の行政命令か?」
「いやいや違う違〜う。完っ璧なる私用。単なる好奇心。―――要はけ・ん・ぶ・つ・だ。」


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bkm


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