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またしても、二人して同時にはっきりすっぱり言い返した。
「ああっそう言えば、俺の回りで所帯持ったのってユリウスが初めてだ!やっぱお祝いとか送ったりすんの?」
コソコソとユリウスに話しかけているが、パロマにもしっかり聞こえていた。
所帯持ってないって言っているだろ、持ったとしても本人に祝いとか聞くな!と、テーブル向かいに座った彼を、ユリウスがガミガミ怒っている。
パロマはユリウスの淹れたコーヒーをサーバーからカップに注ぎ、温めたスコーンを木製のトレイに乗せつつ、後方から突然の訪問者を観察する。深紅のロングコートという個性的な服を隙なく着こなした彼は、まるで自分の家の様に椅子に凭れかかって寛いでいる。組んだ足は頑丈そうなワークブーツ、隣には彼の身長程もありそうな大刀を無造作に立て掛けている。怒鳴り散らしているユリウスに対し、年下らしき青年はへらへらと全く動じていない。
(この部屋に着くまで付き合ってないって散々説得したのに、話は結婚まで進んじゃったわ。)
ユリウスはどちらかと言うと、遠まわしな発言はせず端的に話す方だ。それをどうすればあんなに婉曲して伝わるのだろうか。パロマは恐る恐る、コーヒーカップとトレイを突然の客人の前に置く。
「おぉ!ありがとっ。お嫁さんがいると、あったかい食べ物まで出てくるのかぁ。ここも変わったなぁ・・・。」
「・・・・お前はもう良いから、コーヒーだけ飲んでいろ。」
もう訂正は諦めたのか、ユリウスも自分のカップに口を付ける。それからパロマの興味津々の視線に気が付いて、前に座った彼の事を紹介してくれた。
「こいつの名はエース。私の仕事の手伝いをしてくれているが、本業は『ハートの城』の軍事の総括を任せられた騎士隊長だ。」
「あはは。本業はユリウスの手伝いで良いよ〜。あそこの仕事は自由が効かなくて息が詰まる。」
「それがお前の役割だろ。そして、こっちが―――?パロマだ。この塔に通りかかった、た・だ・の・居候だ。」
エースの死角で必死に首を振るパロマに気付き、ユリウスは簡単な紹介で止めておいた。『ただの居候』の所だけは、殊更ハッキリ丁寧に発音していた、がしかし、今までの彼の斜め上を行く解釈を考えると、それも無駄な足掻きだろう。
しかし、パロマはユリウスの言葉より、その前に発言されたエースと呼ばれた彼の事が頭の中でリフレインされていた。


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bkm


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