5*藤視点

俺が偶然にも襲われた相手は、気が狂っていた。
…それっぽく言ったところで何も事実は変わらないのだけれど。
いつもの癖で、ふらふらと放浪していたら、いきなり襲われた。
「なんで」だとか「お前は俺が殺したはずだ」とか物騒な事を呟いては、しきりに周りを気にしていて。なんだこいつ、とか思うのとほぼ同時に、喉を切られた。
的確な、人を殺すための動き。
痛いと感じる間もなく俺の意識は飛んでった。



それからすぐに再生しきって、蘇生。
意識が戻ってきた。
まだなんか呟いてる声が聞こえる。
体を起こすと、さっきの男。
めちゃくちゃビビってる。
「いったいなぁ…なんだよ君。」
文句を言うと、さらに怯えた。
面白い。

俺を殺したその瞬間だけは正気に戻っていた瞳。
口走っていた言葉。未だにくすぶる狂気。

あ、そっか。
「殺人依存症、みたいな?そーいう感じかな?殺してなきゃ正気を保てないーみたいな。」


それじゃあさ、俺の事殺しなよ。
だって、面白いんだ。俺に恐怖する顔は正気を保っているように見えるのに、明らかに狂ってるんだもん。
いつ壊れるのか。気になるじゃない。
家までついて行ってやる。満足するまで離れないんだから。


がたがた震えながらも歩いていく姿はかなり滑稽だ。
これは幻覚だ、とかブツブツ呟いてる。
残念だけど本物だよ。
そうして男はまっすぐ家へ帰った。
ちょっと警戒心無さすぎじゃない?


「ここが君の家?おじゃましまーす。」
家へ勝手に踏み込むと、男はしばらく視線をさまよわせたあと、また「ひっ」と情けない声を出した。
名前を聞くと、「しょう」と帰ってきた。普通の名前、とその時は思った。(後に確認すると、正と書いてしょうなのだそうだ。人殺しが正!と爆笑したら不満気な顔をされて、また殺された。)
俺の名前を名乗ると、少し睨まれた。この体じゃ、馬鹿みたいな名前だけど、本名だよ。


それからちょっとお話して、それでちょっとからかったらまた殺された。
俺が本当に不死身なのかの確認のためか、今度は心臓を狙われた。
意識を取り戻すと今度は服を完全に脱がされていた。さっき、服が乱れてたのはこのせいか、と思い至ったが、それとこれとは別だ。
なんだよ。野郎相手に屍姦とかすげぇ趣味してんな。
悔しいけど気持ちよくて、でもやっぱりムカついたから文句を言ってやったら、今度は首を絞められた。
やっぱり、こいつはおかしくて面白い!



正気を完全に失うその時まで。
とりあえずは観察してみようかな、って。
そう思った。
しょうが俺にギラギラした目を向けてたのは、まぁ。見えなかったことにしておく。





<終>




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