「おめでと」
「……え?」
朝、食後しばらくしてから、イオンは何か白い箱を手に抱えてやってきた。ただの箱じゃなくて、リボンやらなんやらでラッピングされた箱。
渡されたアッシュは開けていいものかどうか悩んでいる様子で、イオンは薄く笑いながらも、どこか楽しげに彼に頷く。
「おめでとう?」
「今日が何の日か、知らないのかい?」
「知らない」
その横でこくりと頷くと、イオンが口を開きかけて、アッシュは小さく歓声を上げた。
アッシュの肩越しに覗いてみると、白い何かで囲まれた低い円柱形に、フルーツが乗せられている、ソレ。もう8等分に切り分けてあるようだけど。
食べ物、かな……?
「イオンっ、なんだコレ! フルーツ盛ってるぞ!」
「ケーキだよ」
「食べ物?」
「そう。あ、もう切り分けてあるよ」
もう一つの袋から、小皿とフォークを取り出して見せるイオン。椅子が足りないから、机をベッドに引きずって寄せ、アッシュがぼふりと腰を沈めた。三人で机を取り囲み、アークがそろそろと小皿に取り分けていく。
食べなれないものには必ず抵抗を見せるアッシュも、イオンが持ってきたものとなると、一寸の疑いもなくフォークを握った。もはや恒例となった『いただきます』を終え、フォークを尖ったほうに刺してみると、ふんわりとした感触が手を伝う。
アッシュと同時に口に含むと、ほどよい甘さが口内に広がった。
……甘い。
「……おいしい!」
「そう。よかった」
「イオンっこの白いのなんだっ?」
「あぁ、生クリームだよ」
生クリームとやらを口のまわりにつけたまま、アッシュは食べつつイオンにあれやこれやと訊ねている。きっと最近イオンがあまり来なかったからだろうが、今日は富みにはしゃいでいた。
もはやソレに慣れたイオンが、自分も口に運びつつ、その名前を教える。
ぼうっと二人を眺めながら、ケーキを色鮮やかに飾るフルーツへ、浅くフォークを突き立てた。
アッシュにとってイオンという存在は、初めて心を許した『外』の人間であり、大きな刺激をもたらしてくれる特別な存在、なのだと思う。
今まで(まったく知らなかったからかもしれないけど、)興味を持たなかったことを次々と求めるし、それらをもたらしてくれるイオンに依存している。
……彼にとって、イオンはなんなのだろう。
もしも、イオンがいなくなったら?
もしも、イオンに嫌いと言われたら?
彼はきっと悲しむのだろう。
『彼』は、
「――誕生日、おめでとう」
少年は、笑った。
外の世界に飢えるキミ
全ての答えに飢える僕
貴方は誰で僕はダレ?
H21.5.11 加筆修正・再掲載
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