永遠

「俺もマルコが好きだよ」
 勇気を出した告白に自分も答えを返した。ただただ驚きで目を見開く相手にさらに言葉を告げる。
「それとも愛しているって言った方がいいか?」
 優しく笑いかける。自分の言葉は届いているはずなのにまるで銅像のようにその体は動かない。
「愛してるよ、マルコ」
 追い打ちをかけるようにもう一度告げて、その右手を両手で握り締めた。冷たい手は緊張の証だろうか。
「マルコ?」
 ポロポロとマルコの目から雫が落ちていく。その頬を濡らし、足元の地面を濡らす雫はいつまでも止まらない。流れる涙を止めようとマルコは目を擦りはじめ、ひくつく喉を喘がせた。
 そんなにしたら体が痛んでしまう。
「さ、サッチ……!」
 その体を抱き寄せた。驚くマルコをよそにその背を撫で、さらにきつく抱き締める。胸元で鳴る互いの心音は早く、ひどく心地がよかった。
「……落ち着いたか?」
 涙は止まっていた。無言で頷くマルコに微笑む。
「よかった」
 あのままではマルコの目が腫れてしまうところだった。それでも今も十分に赤い。体も疲れているはずだ。
「このままじゃあれだから店に入ろうか」
 今度はマルコも素直についてきた。何を言うべきかわからずに、ただ無言でケーキと紅茶を差し出す。黙々とケーキを食べるマルコは可愛くて、ときおり視線が合うと照れくさそうに笑った。
 この顔が好きだ。
 改めて思う。自分のケーキを食べて幸せそうに笑うマルコの顔、自分と一緒にいて楽しげに笑うマルコの姿。俺に向けられるまっすぐな好意に胸を打たれたのかもしれない。
 正直、告白されるまで意識をしたことはなかった。けれど意識をすれば、マルコのことを自分がどんな風に感じていたかは明白だった。マルコといるととても温かい気持ちになる。
 それはいままで出会った誰よりも深いものだった。この気持ちは疑いようもない。
 次の休日はマルコをデートに誘おう。二人で街を歩いて、買い物をして、ご飯を食べて。そしてマルコのためだけのケーキを作ろう。生クリームたっぷり、果実たっぷりのスペシャルケーキだ。きっとマルコは喜んでくれるだろう。
 甘い未来の想像に胸を膨らませる。休日の訪れが待ち遠しかった。



「本当に上達したよなあ」
 一緒に料理を作るマルコの手際に感心する。元々不器用ではなかったが最初の頃よりもその腕は格段にあがっている。ゆっくりだった包丁使いは軽くリズムを刻むほどになり、基本だけであとは雑だった料理の手順も正しくなった。
 一緒に暮らし始めて五年。互いに仕事の無い休日は二人でごはんを作ることが決まりごとだった。
 初めて一緒に作ったのは三年前。料理をしている俺に手伝いをさせて欲しいとマルコが言ってきたのだ。初めは気にしなくていいと断った。けれど見ていると楽しそうだと言われれば、それ以上遠慮する必要はなかった。
 料理は楽しい。特に愛する人のために作ることは。
 初めての共同調理はマルコが手順を知らない分、ごたごたとして大変だった。けれど楽しかった。一人で作る時よりも何倍も。そして出来上がった料理もいつもよりもずっと美味しかった。
 それから俺たちの決まりごとは始まった。どんどん料理が上手くなっていくマルコはそれだけ共に過ごした二人の時間を感じさせ、幸せな気持ちになる。
 今日のメインディッシュはペスカトーレとグラタン。俺が魚介を処理している横でマルコはグラタンに使う野菜を切っている。以前はつきっきりで見ていたが、いまでは要所要所でアドバイスを入れるだけでよくなった。これも成長の証だ。
 魚の処理を終えてデザートの準備に取りかかる。この分ならグラタンだけでなく、ペスカトーレの調理もマルコに任せて大丈夫だ。ボウルで生クリームを泡立てていく。
「食べる?」
 出来上がった生クリームを指ですくい取り、マルコへと差し出すとその唇が指先に寄せられる。初めて指を差し出した時は顔を真っ赤にして断られたが、何度も繰り返すうちに諦めて食べるようになった。恥ずかしがる姿が可愛かったから止めなかったと言ったらマルコは怒るだろうか。
「さあ、運ぼうか」
 出来上がった料理をテーブルへと運ぶ。並べられた料理はいつもよりも気合いが入っており、その傍には真っ赤なバラの花束が飾られている。それは今日が特別な日だから。
「ハッピーバースデー、マルコ。これからもよろしくな」
「ありがとう、サッチ。これからもよろしく頼むよい」
 今日はマルコの誕生日だ。そして二人の大切な記念日でもあった。ワインを注いだグラスを傾けるその左薬指には指輪がはめられている。一緒に暮らしはじめて初めて迎えたマルコの誕生日に俺が贈ったものだ。対になるものが自分の指にもある。
 プロポーズは柄にもなく緊張した。どうせなら記憶に残るものにしたくて、あれやこれやと考えた。記念すべき日はマルコの生まれた特別な日を選び、プロポーズという意味を持つ百八本のバラの花束を用意した。マリッジリングもマルコの好みを考えて徹底的にリサーチして決めた。
 告白は大成功だった。今にも泣きだしそうな顔をしてマルコは感謝の言葉とともに俺のプロポーズを受け入れてくれた。
 男同士ですでに一緒に暮らしているのなら別にプロポーズの言葉はいらなかったかもしれない。けれど、どうしても言いたかった。きちんと言葉にして、ちゃんとした関係を築きたかった。
 俺に勇気をもって告白してくれたマルコのように、俺も決意を示したかったのである。
 あのとき百八本贈ったバラは今では十一本になっている。【最愛】
という意味を持つそうだ。さすがに百八本は多いと苦笑されてしまい、話し合った結果、こうなった。
 でも気持ちが伝わっているのならそれでいい。
「サッチ、愛してるよい」
 なんて幸せなのだろう。
 この時が永遠に続けばいい。
 そんな陳腐な台詞を思うほど、いまこの時が幸せだ。ずっとマルコと、共に生きていきたい。
「俺も愛してるよ、マルコ」
 何度でも愛を誓おう。大好きなその名前を呼びかけよう。
 この幸せが永遠に続きますように――。

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