その花の名は――。(1/6)

我が生まれてから18年。
奴との出会いからも18年。
記憶も無い幼いころからの知り合いで、いまでは恋仲にあたる男。
あの男は決して我の名を口にしない――。



「あちぃ……」
みっともなくだらりとした声が部屋の中に響いた。
声を発したその男自身もみっともなく服をはだけさせ、床に仰向けになっている。
「だから冷房をつけよと申したであろう」
「だってもったいねぇじゃん」
「それで暑さに倒れては本末転倒というものよ」
「相変わらず難しい言葉知ってんなー」
深くため息を吐いた体は目を閉じた。
くせのある髪が床に散らばり、額からは汗が滲んでいる。
起き上がる気配も無く、そのまま寝てしまいそうな相手に重い腰を持ち上げた。
「うわっ……!冷たッ!」
「少しは冷えたか」
転がる顔に向かい、投げつけたのは氷水に浸したタオルだった。
絞り方が甘く、起き上がった拍子に転がり落ちたタオルで服が濡れてしまっているが床は無事だし、まぁいいだろう。
「何しやがる!」
「暑い暑いと口うるさいからよ。感謝せよ」
「せめてもうちょっと絞ってから渡せ!」
文句を言いつつも自分で立ち上がり、開いた窓から水を絞って落とす。
「あ〜、気持ちいい」
絞ったタオルを顔に当て、再び床に寝転がる。
動く気配の無い相手に仕方がないと借りてきた本を手に取った。
敷きっぱなしの相手の布団を適当にたたんで奥へと押しやり、そこにもたれかかる。
付き合い始めたものの、その実情はこうして互いの家を行き来し、ただなんとなく過ごすことが多かった。
共に外へと出掛ける時もあるがいまのところ致したことと言えば手を繋ぐことぐらいだ。
これではただの友人と変わりないではないか。
好きだと告白はされた。愛でるような素振りも見せる。
けれど、この男が一線を越えようとすることはなかった。
我が幼いゆえに手を出さないのか。
しかし我とてすでに18。学生とは言え、法律上では婚姻さえ可能な年だ。
それに、そういうことではないのだろう。
気づかれぬように向けてくる慈しみの表情はいつもの顔に無い、物寂しさを漂わせていた。
何か言いたげでありながら決して口は開かず、ただ真っ直ぐな眼差しだけが降り注ぐ。
何故そんな顔をするのか問いかけたいが優しげに憂う顔はこちらの口をも封じ込めてしまう。
幼いころからずっとそんな視線を感じていた。
そう、あの時も――。

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