ミルク多めにカフェ・ラッテ

「こんにちはー!へへっ、どうも」
雨の季節もようやく終わり、真っ青な空に真っ白な入道雲が映える季節を迎える。
まぶしい日差しのような笑顔を見せる黒髪にそばかすの青年は以前も店に訪れたことのある青年だ。
突然声を掛けられ、驚いた表情を浮かべたサッチだが実際に驚いていたのは別のことであった。
「今日はお茶しに来ましたよい」
明るく笑う青年の横にちょこんと立っているのは微笑みを浮かべた天使。
否、サッチの愛するマルコだった。
「この間のケーキ美味かったからまた食べに来たんだ」
「それはありがとうございます……」
エースに対し、型どおりの感謝の言葉を述べながらもサッチの頭の中はもうすでにマルコのことでいっぱい。
動く度に揺れる金髪は今日も黄金のように眩しくて、見つめた青い目は夜空にいるお星様のようにキラキラしていた。
そして目があった瞬間にぎこちなくはにかむその姿……!

死ぬ!死んでしまう!
マルコが可愛すぎて心臓がおかしくなって息の根が止まってしまう!

白いコックコートの上から握り締めた心臓は狂った叫び声を上げていた。
「では、こちらの席へどうぞ」
表面上は飽くまで冷静に丁寧に。
言葉が変にならないよう心の中で反芻しながら足取りはゆっくり目に歩いた。
案内した席は入口から一つ奥。
ケーキを買いに来た客の相手を行うサッチから一番よく見える席だ。
メニュー表を渡し、とりあえずは業務に戻ったものの目はチラチラと二人の様子を窺ってしまう。
メニューを見ながら語る二人はとても楽しそうでマルコの目の前にいるのが自分ではないことに寂しさを覚える。
嫉妬で燻り始めるサッチの心。
でも次の瞬間、そんな感情は跡形もなく吹き飛んだ。
客の勘定を済ませ、閉じるはずのレジを開けっぱなしのまま、サッチの目は一点に釘づけ。
その視線の先ではやんわりと微笑むマルコがゆらゆらと手を振っていた。
「すみませーん、注文いいですか?」
「は、はい!」
レジをやや乱暴に閉め、声をかけたエースの下へとサッチは小走りに駆けた。
実際は自分に手を振ったマルコのことばかり見ていたわけだけれど。

「俺はチーズタルトにコーヒーで。マルコは?」
やはりこの青年はマルコの事を呼び捨てで呼んでいるらしい。
言われた品をオーダー用紙に記しながらサッチは二人の様子を窺う。
マルコの方もメニューを選ぶ会話の中で青年のことを呼び捨てにしていた。
気軽に名前を呼び合う仲にまた嫉妬の炎がチリチリと燃え始める。
「俺はティラミスとキャラメルシュークリームとミルククレープ。それとブルーベリータルト。飲み物はカフェ・ラッテをお願いしますよい」
「四つも食べるのか」
「エースだってケーキ食べに行くって言うのにさっきパン食べてたじゃないかよい」
「いや、甘い物ばっかり一気によく食えるなぁって」
「俺の主食はケーキだよい」
「だからそれはダメだろ」
再び始まった二人のやりとりに割り込む隙は今のサッチには無い。
「畏まりました。では、少々お待ちください」
とりあえず切り上げてケーキの準備に戻ったものの、その目はまだ二人のことを追っていた。
だがエースに嫉妬はしてもサッチはそれを恨みはしない。
あの青年とマルコの関係はとても妬ましいけれど、とても羨ましいけれど、それでもマルコはサッチの運命の相手なのだから。
マルコといずれ結ばれて幸せになるのは他の誰でも無いサッチであるはずだからみっともない恨みは持つ必要がないのである。
それにサッチはマルコの笑顔が大好きだからマルコに優しく接してくれるのならばその相手の事も大切にしてやらなければ。
妙な使命感を胸にサッチは注文された品を盆に乗せて持っていく。

「お待たせしました」
「うわー、美味そう!」
ケーキ五つと飲み物を並べると小さなテーブルの上はもう一杯だ。
「そうだ。これはちょっとしたサービスです。内緒でね」
「わぁ……!」
二人分のフルーツゼリー。
サッチが作った今月の新作だ。
喜ぶマルコの表情を見てまた胸がいっぱいになる。
「ではごゆっくり」
「ありがとうございますよい、サッチさん」
頭を下げるサッチににこやかに放たれた甘い声。
心臓は限界だった。
また軽く頭を下げてその場を去ったものの崩れそうになる顔を留めるには大変な労力が必要だった。

マルコが俺の名前を嬉しそうに呼んだ!

この間といい、そんな優しい笑みと声をサッチに向けてくれるなんてきっとマルコもサッチの事が気になっているに違いない。
だって運命の相手だもの。そうなるのは当然だ。
ちらりとまた横目に見たマルコはエースと談笑しながらサッチの作ったゼリーを口にしている。
柔らかそうな唇がゼリーを一口含んで一噛み、二噛み。とても美味しそうに食べている。
マルコのお腹の中でじわじわと消化されていくゼリーの様にサッチの心の中では幸せの感情がじわじわと滲み出ていた。
ケーキを半分食べ終えてマルコの手がカフェ・ラッテに伸びる。
マルコのためにミルク多めに、特別に蜂蜜をちょっぴり入れてあるサッチ特製のカフェ・ラッテだ。
何も知らないマルコは一口含むと少し驚いた様に目を広げたがすぐに嬉しそうな顔をして甘めのカフェ・ラッテを美味しそうに飲んだ。
甘い物を食べて、飲んで、作られるマルコの体もきっと特別甘いに違いない。
可愛いマルコには甘いものがとても似合う。
幸せそうなマルコを見つめながらサッチもまた甘い幸福を味わっていた。

[ 9/16 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -