春の似合う男

軽やかな鼻歌と共に揺れる体が手元のボウルをかき混ぜる。
薄黄色の生地がくるくると回る様子を見つめるその目はとても楽しそうだ。
「なぁ、マルコー。そこにある瓶とって」
泡立て器を持つ右の人差し指がピンと張って机の隅を指差した。
その指示通りに目の先にある茶色の小瓶を取り上げる。
「ほらよい」
「ん、ありがと」
笑って受け取るその手がボウルを置いて瓶の中身を生地へと垂らし込む。
「これ入れたら良い風味がつくんだよ」
“ほら”と言って鼻先に近づけられた瓶からはなるほど甘い柑橘系の匂いがした。
「誕生日なのにお前さんにケーキを作って貰うってのもおかしな話だねい」
再びボウルを手に取ったサッチに笑いかける。
そう思いながら強請ったのもまた自分なのだが。
ふとそう思って言ってみるとボウルを掻き回すサッチの手が止まり、一瞬きょとんとした顔が浮べた。
意外そうな目が自分を見て、そして笑う。
「いいや?俺がマルコに菓子を作るのは当たり前のことだから何もおかしいことはねぇよ」
ほどよく混ざった生地をサッチが用意していた型へと流し込む。
とろとろ流れる生地を目で追いながら穏やかな声を聞いていた。
「俺はマルコのために美味しいもの作ってやるのが役目なの」
そんな台詞を本当に幸せそうに言うものだからこちらの方が照れてしまう。
そんな感情が顔にはっきりと出ることは無いがそのことも多分サッチはお見通しだろう。
その証拠に目が合えばどこか悪戯っぽい目が嬉しそうにまた笑う。
よく人にわかりにくいと言われる人の感情をよくそんなにわかるものだと聞けば“愛だから”とそんなことを平気に口にする。
そういう奴なのだ。
「後はオーブンで焼くだけだな。出来上がるまで時間があるけどどうする?」
「お前さんに任せるよい」
そういうとサッチは天井を見つめしばらく悩んでいたがいい案が浮かんだのか弾んだ声ですぐに話しかけてきた。
「じゃあ、散歩にでも出掛けようぜ。せっかく停泊中でお天道さんもいい具合だしな。ケーキならコックに言っとけば後は取り出して貰うだけだから大丈夫だろ」
窓の外を見れば明るい陸の風景が視界に飛び込んでくる。
「デートしましょう?」
自分で言っておかしくなったのか改まった言葉を茶目っ気含んで吐いた口元が歪んでいる。
その様子を見て自分もつい口元が緩んだ。
そのまま同じように畏まって言葉を返す。
「エスコートはまかせたよい」
「もちろん」
差し出された手の平に片手を乗せ、立ち上がる。
外では爽やかな風が吹いていて地面には海には無い花が咲き綻んでいた。
色とりどりの花を視界に映しながらその中にいるサッチを見て春の似合うやつだとそんなことを考えた。
春の日差しのようにその手は温かい。


(Happy birthday Thatch!☆)



サッチ誕生日おめでとう!
さらっとした奴だけどほのぼのが書きたかった。
なんだかんだでラブラブな二人w
春生まれなサッチは可愛いと思う


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