子育てしましょ♪

「……何こいつ」
サッチは目の前のものを凝視した。
「うっ、うぎゃああああああ!」
「わっ、なんだ!?」
「バカ野郎!泣かすんじゃないよい!」
よしよし、とマルコが揺すれば五月蝿い叫び声が止み、あぅー、という声が聞こえた。
「全く、脅してんじゃねぇよい」
「脅してねぇよ!」
「その顔つきだけで十分なんだよい。この不良リーゼント!」
「なんだと!?リーゼント馬鹿にすんな!」
「静かにしろい!また泣いちまうじゃねぇか」
見れば、またも目元に涙が滲み、体もぷるぷると震えている。
泣き出す数秒前というところだろうか。
「うわっ、まて、大丈夫だから!」
「うっ、うえっ……」
「ああ、ほら。大丈夫だよい。俺がついてるからねい」
マルコがあやすと子供は泣き出しそうになったのが嘘のように笑った。
「……ところでそいつ、誰かに似ているような気がするんだけど」
黒髪にくせ毛、ちょっとツリ目に、何より顔についたそばかす。
どう見てもエースそっくりだ。
「あいつガキなんて作りやがったのか。自分もまだガキなくせに」
「ちげぇよい」
「どう見たってこれは親子だろ」
ほら、といってそばかすをつつく。
「やめろい、また泣くだろうがい。こいつはエースだよい」
「は?エース?」
「そう、エース」
「これがああああ!?」
「だからうるせぇよい!」
容赦ない足蹴が繰り出された。
「でもなんで……」
つぶされたリーゼントを擦りながらマルコに問う。
「グランドラインの不思議だよい。心配しなくても一日で治るそうだい」
「そりゃ、よかった」
「で、俺らが今日一日面倒見ろとよい」
「は!?なんで!」
「てめぇのせいだろい」
「ちょっ、やめろっ!」
つぶれたリーゼントを鷲掴みにしてさらにぐちゃぐちゃにするマルコ。
「なんで俺のせいなんだよ!」
「そりゃ、お前……」
“お前ら仲良いし、夫婦みたいなもんだろ。お前らが面倒見ろよ”数分前のイゾウの言葉だ。
もちろん抵抗したが、オヤジにもお前らが適任だと言われてしまい、マルコは渋々それに従った。
「それ、俺のせいだけじゃなくない?」
「うるせぇよい。とにかくお前も手伝えよい。こいつ行動力がすごくてやっかいなんだよい」
ため息を吐くマルコ。
サッチのところにくるだけでも何度腕から這い出そうともがいたことか。
「下ろしてやれよ」
「嫌だよい。逃げられて海にでも落ちたらどうするんだい」
「塀は越えられないだろう。それにお前、こんなガキより足遅いのか?」
「いちいち言い方がむかつくよい」
「だからこれ以上リーゼント潰すな!」
「うっあ、うううッ……」
「わっ、なんだ?」
「また泣きそうだねい」
マルコがあやすも効果が無い。
それどころか段々ぐずりが増している。
「……もしかして腹へってんじゃねぇ?」
お昼時なの思い出して言えばなるほど、とマルコも頷く。
「それじゃあ、よろしくねい」
「よろしくって……」
「ミルク作るのは母親の仕事だろい」
「だれが母親だ!」
「いいから早くしろよい。また泣いちまうぞ」
「でもミルクなんて……」
「キッチンに用意してるとよ」
「用意のいいことで……」

「あ〜泣いちまってるな」
数十分後、サッチがミルクを持って戻ってくると泣き叫ぶエースをマルコが一生懸命あやしている。
「あいつの方が母親っぽくねぇか?」
サッチは笑った。
「あっ、サッチ!早くしろよい!」
「はいはい」
ほら、とミルクの入った瓶を差し出す。
もちろん冷まし済みだ。
「なに言ってんだい。お前がやるんだよい」
「俺がぁ?」
「ほらよい」
渡されたエースを慌てて抱える。
子供なぞ抱いたことはないから少し怖い。
「こうするんだよい」
マルコの手が伸びて、正しい抱き方を俺に示す。
「ほら、早く飲ませてやれよい」
マルコの言葉に恐る恐る瓶を口元に持っていけば赤ん坊のエースは素直にそれに口をつけた。
んくんく、と飲み干し、中身はあっという間に無くなった。
途端に目元がとろんとしてくる。
「眠いのかな?」
「だろうねい」
「どうすりゃいいんだ?」
「寝かせればいいだろい」
「どこで?」
「そりゃお前の部屋だろい」
「仕方ないなぁ」
サッチはため息を吐き、エースを抱いて自分の部屋へと向かう。
もちろんマルコも一緒にだ。

「よいしょっと」
ベッドに優しくその体を横たえれば、軽く寝返りを打つエース。
「んむ……」
へらっ、とエースの口元が緩み、幸せそうな笑顔が浮かぶ。
「良い夢でも見てるのかね」
サッチの顔から思わず苦笑が漏れる。
「いいことだよい」
マルコも微笑んだ。



「おい、お前ら……、って仕方ねぇなぁ」
数十分後、オヤジに言われて3人を呼びに来たイゾウは呆れ顔を浮かべたものの、すぐにその表情を緩ませた。
覗いたサッチの部屋のベッドでは赤ん坊のエースとマルコ、サッチが仲良く並んで眠っていた。
エースを挟み、さながら親子川の字だ。
どれも穏やかな表情をしている。
「オヤジにはエースと遊ぶのは諦めてもらうしかねぇな」
そう呟いて彼にしては珍しく何もせず、そうっと部屋を出て行った。
ドアを開けた拍子に吹いた風が眠る3人の髪を揺らした。

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