波の囁き声が聞こえる

波の音はもう耳に馴染んで、眠りの何の妨げにもなりはしない。
それは自分の隣でいびきをかいて寝ている男の、動きやそのいびきも同じで、目が覚めたのはなんのきっかけもなく自然にだった。
ころり、と寝返りを打って自然と近くなったその顔に顔を寄せる。
すやすやと眠りを貪る男の顔は安寧で、ひどく穏やかな気分になる。
目の上の特徴的な傷をなぞる。それはもう痛みも何もない傷で、ぼこりと膨らんでマルコの指を押し返した。
サッチの身体に知らない事は少なくて、どこにどんな傷があるだとか、滑舌が良くて聞き取りやすい声だとか、肌を伝う汗の味だとか、本人は加齢臭かもと気にしている少し濃い体臭だとか、五感が覚えていてこの目が見えなくともサッチだと断言できる程度にはお互いに馴染んでしまった。
それはこの危険な海賊家業をしている身の上としては素晴らしく幸福なことだった。
素肌を撫でるようにサッチの腕が身体をなぞっていく。
「起こしたかい?」
「こんな熱烈に見られたらな」
それ以上会話は続かず、静かになった部屋に波の音が静かに届く。
一度途切れた眠気はそれを子守唄にゆっくりと訪れて、触れ合った肌が少しばかり情欲を煽るのに、瞼がゆっくりと落ちていく。
サッチの手の動きも酷くゆったりと重くて、多分同じ状況なのだろう。
おやすみと囁く波の音が部屋へと満ちた。

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