水平線の彼方

陸で過ごすより海で過ごす時間のほうが圧倒的に多い生活を、幼い頃からしている。陸に居たときですら、海は近くにあって、潮の匂いと波音が常に側にあった。
空の青さと海の青さが交わる部分を見るのが好きだった。境界線が曖昧になってしまいそうなのに、まっすぐに線を引いたかのようにきちんと分かれているのが見ていて気持ち良い。
「なーに黄昏てんだ、若造」
背後から声をかけられて船縁から身体を起こして振り返る。
「サッチ!」
その手の上に見えるのはほかほかと湯気を立てる大量のホットケーキだった。しかもたっぷりのバターと蜂蜜を乗せている。
「おやつの時間だぜ」
差し出されたホットケーキに腹は現金にもぐぅとなって、サッチが遠慮もなく笑う。
文句を付けようと思ってやめた。
天気は底抜けに良くて、海は綺麗で、そしてサッチお手製だろうふかふかのホットケーキが目の前にある。これを幸福と言わずしてなんと言うのだろう。
フォークをひっつかん分厚い一枚を口へと放り込む。
バターの塩気と蜂蜜の甘さ、柔らかい食感とバニラ特有の匂いが一気に口内に広がって自然と顔が笑みを作る。
「本当にお前は美味そうに食ってくれるなぁ」
嬉しそうに笑ったサッチが頭を柔らかく撫でてくれる。本当に幸せだった。
幼い頃、憎しみすら持って見ていた水平線の彼方に、こんな幸せがあるなんて思っていなかった。幸せになれるなんて思ってもいなかった。
それを許してくれたのはオヤジで、甘やかしてくれる兄達だった。
口内に溢れる幸せを噛み締める。
サッチが笑いながらたっぷりのホットミルクを差し出してきてそれを受け取って、ホットケーキを喉の奥へと流し込む。程よく温められたミルクは砂糖も入っていなかったけれど甘く感じた。
「お前相手だと本当に作り甲斐があるなぁ、マジで」
また柔らかく頭を撫でられたあと掠めるようにキスを一つ落とされる。
甘い、と言うサッチに当たり前だろう、と返して残りのホットケーキに口を付ける。潮風に乗ってホットケーキの甘い匂いが広がっていく。

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